楽日そそり 5


 後の後、泰平の世が訪れた後。
 三成本人の許可を取って開封してみたところ――

『刑部へ告ぐ。不測の事態ゆえ休暇の延長を請う。
 普請の件、滞りなきよう頼む。
 土産として家康の蔵書を持ち帰る。
 奴には不要のものであるらしい』

 どうやら三成はあの日、帰らずにいようとしていたらしい。
 それだけで家康は十分に心が躍ったのだが、キッチリと書かれた文章の横には、走り書きのような文字で更なる文言が連ねられていた。

『追記

  帰ったら相談したいことがある。  

    家康が笑うと
       心がざわめく。
     落ち着かない。
             苛立つ。

   礼を言われると苛立ちが失せる。
         私は妙だ。  
     仕事が手につかない。
         今しばらく、様子を見たい。』

 家康は思わず文を握り締めて、必死に伸ばし。
 丁寧に仕舞い直してから楽しげに、満面の笑みを浮かべて。
 同じ空の下に身を置く三成の元へと一目散に駆けた。


  了.

----備考----
合同誌「行雲流水」に寄稿した小説です。
お題は「楽」。楽日は千秋楽。舞台などの最終日のこと。
そそりは千秋楽の舞台で、役者が冗談やおふざけを行うことです。

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