翌日の稲葉山は稀に見る快晴であった。 終始尽きることのない霧も晴れて、雨で洗い流された清浄な空気が広がっている。頬を撫でる微風が土と木の香りを孕み、吸い込めば身の内を洗われるようである。 だが、山を下る2人の面持ちは芳しくない。 「腰が痛い。責任を取れ」 「今、まさに取っていると思うんだが」 「足らん」 背負われた三成は腰が痛い。 背負う家康は足元のぬかるみに気を紛らせている。 「次はもっと上手くやれ」 蟲惑の枷には己が見えず、ゆえに元より迷いなく。 「……精進しておく」 万民を照らす陽光は、鏡に写る自身の姿に目を眩ませて。 今はただ、盲目の恋に溺れるのみ。 了. ----備考---- 2010年10月にオフライン発行したものです。 back/top/novel |