ある日の放課後―スケット団部室にて―

「ほな、罰ゲームは椿で決定やな!」

「なっ!?罰ゲームなんて聞いてないぞ!!」

何故こうなった!?
ボクはこいつらに注意をしに来ただけだというのに…
トランプやるから混ざれとか、負けるのが怖いのかとか言うから僕もムキになってしまって。結果負けてしまった。
これほど屈辱的なことは無い。しかも罰ゲームだと!?ふざけるな!!そんなのはごめんだぞ!!

「うっさいねん!さっき決まったんや。…そやな、1位のスイッチに決めてもらおか」

ボクの意見を一蹴した鬼塚が一番に上がった笛吹に提案をした。笛吹の考えた罰ゲームとか怖すぎるだろう…

『任せろ!…ふむ、今から1日ボッスンのこと名前で呼んでもらおうか』

「「はぁあ!!?」」

「そりゃえぇわ!兄弟なんやし、普通は名前で呼び合うのが当たり前なんやし!」

案の定ロクなこと言わない。
何故僕が藤崎なんかを名前で呼ばなければならないのだ!!

「ふざけんなよっ!!何で勝手に俺を巻き込んでんだよ!!」

「何でボクがそんなことしなくてはならんのだ!断る!!」

仲良くハモってしまって放った言葉に少し気分が悪い。
だが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。なんとかしてその罰ゲームだけは阻止しなければ…

「何や椿、負けたのに往生際が悪いで」

『名前呼ぶことも出来ないんだな?』

「ばっ馬鹿にするな愚か者!!名前ぐらい余裕だ!」

はぁ。どうして僕はこう、すぐにムキになってしまうんだ。
これだけは治そうと今回本気で思った。

「ほな呼んでみ?」

じっとこっちを見る鬼塚にもう後には引けない。

「ゆうすけ、」

「!!」

初めて呼んだ藤崎の名前に次第に顔に熱が集中する。

「何や、にやけてまうわ…ホンマ兄弟なんやなぁ」

「かっからかうのも止めてやれよ!!椿だって生徒会の仕事まだあんだろ!もう帰してやれよ!!」

何が嬉しいのかずっとニヤけている鬼塚に藤崎が食ってかかる。
藤崎の顔も赤い様な気がするが、気のせいだろうか。

「何やボッスン顔が赤いで?」

「うっせーな!!赤くねぇよ!!椿もホラッもう帰れよ!」

「あっあぁ…では、失礼する」

藤崎の言葉にホッと胸をひとなでした。結局藤崎の顔色は伺えなかったけど、ボクも赤い顔を隠したくてずっと俯いてしまていたから、早くこの場所から逃げ出したくてしかったがなかった。
鬼塚たちに赤い顔がバレないようになるべく平静を装ってスケット団の部室を後にした。
ガラガラ…。部室のドアを閉めドアを背にその場に屈み込む。
(はぁ〜…顔が熱い…)

明日は藤崎に会わないようにしようと心に決めた。



―――翌日の放課後―――
放課後まではなんとか藤崎に会わずにすんだ。
あとは生徒会の仕事をしていれば自然と藤崎に合わずに今日が終わる。

「なぁ、椿。スケット団のとこ行って倉庫の掃除の件頼んでこいよ!」

「!?……あの、会長。それは別に今日ぢゃなくても…」

会長。どうしてこのタイミングでスケット団が出てくるんですか。会長実は知っているんですか?笛吹が言い触らしたのだろうか。あいつならやりかねない…

「駄目だよ、だって明日までに片さなきゃいけねぇもん」

「でしたらボクがやっとき「椿、会長命令!」

くっこんな時ばっかり会長命令をする。そんな事ぐらいボクひとりで出来るのに。
こころなしか会長がニヤけている様な気がしてきた。
会長、罰ゲームの事知っているんだ。どこかそんな確信が持てた。

「…わ、わかりました」

嫌だったが、仕方ない。会長命令だから、これは会長命令だからだ!!そう、ぶつぶつ呟きながらスケット団の部室前に来てひと呼吸を置いてドアをノックした。
中から「どうぞ〜」と、言う声を聞き中に入る。

「ふじ…ゆっゆうすけはいるか?」

部室を開ければニヤついた顔を向ける鬼塚たちがいた。その顔がムカツク。笛吹なんてパソコンの画面にでかでかと「ゆうすけ」と文字を打ってこちらに向ける。何がなんでもボクにゆうすけと呼ばせて楽しみたいらしい。

「ボッスンならジュース買いに行ったで」

「そっそうか、では失礼する」

だが、その当の本人の藤崎は留守らしい。ボクは助かったとその場を後にしようとした。しょうがない倉庫の片付けをしよう。

『まぁ、待ちなさい。ボッスンの所まで案内しよう』

「けっ結構だ!!」

いなのならばそれでいいじゃないか!!何故わざわざ探してまで藤崎に会いに行かなければならないのだ!!
藤崎にはできるだけ会いたくない。今は、
藤崎と佑助は同じ人物なのに、なんで藤崎とゆうすけと呼んだ時の気持ちがこんなにも違うんだ…

「まぁまぁそう言わずな?」

鬼塚に背中を押されて嫌々足を進める。



中庭をひとり歩いている藤崎がいた。

「ほらあそこや!ちゃんと名前で呼ぶんやで?」

「分かってる!!しつこいぞ!!」

本当にしつこい。なんどそのセリフを聞かされたことか、もう耳にタコだ。
ボクは藤崎にゆっくり近づく。

「ふ…ゆっゆうすけ」

ボクの声にビクッと藤崎の体が大げさに揺れた。

「……」

「ゆうすけ、その話が」

「…………」

「ゆうすけ?」

いくら声をかけても返事もなければこちらを振り向こうともしない。
ボクが一歩近づけばそれを察したかのように藤崎が全速力で走り出した。

「あっ!おいゆうすけ!!何故逃げる!!ゆうすけ!!」

もう呼びすぎてゆうすけと呼ぶのにも慣れた。まだ、心臓の辺がぽかぽかして少しだけ苦しい。
ボクから全速力で逃げる藤崎をボクも全速力で追いかけた。

「待たないか、ゆうすけ!!」

「はぁはぁ…」

息が、もう苦しい。最後の力を振り絞ってボクは大声を出した。

「〜ッ…藤崎ッいい加減に止まらないか!!」

藤崎。いつもの様に苗字で呼べば藤崎は大人しく止まった。
何故。藤崎で止まる。ゆうすけだって君の名前だろう。

「はぁはぁ」

「何故逃げたんだ…」

「……」

荒い息をお互い整えながら僕はさっきとは違うできるだけ落ち着いた声で藤崎に問いかけた。

「藤崎?」

「……ぶな」

「はぁ?」

藤崎もまだ息は少し荒いが小さな声でぼそりと呟いた。だけどなんて言ったか良く聞き取れずすまないがもう一度言ってくれないかと続ける。

「もうお前、俺の名前呼ぶな!!これ兄ちゃん命令な!!」

「むっ。何故だ!藤崎こっちを向かないかっ!!」

こっちを見ないで叫ぶ藤崎になぜだかイラっときた。言いたいことがあるならこっちを見て言え!!
ボクは少し荒く藤崎の腕を引っ張る。

「ッ!!?」

「ふ、じさき?」

無理やり振り向かせた藤崎の顔は走ったせいなのかすごく真っ赤で、逆上せて倒れちゃうんじゃなかったのかって思うくらいに。

「…ッんだよ!!」

「赤い…」

「ッ!?こっこれはお前から逃げたから…」

「何故逃げたんだ?」

そう問えばしばらく黙った藤崎がゆっくり口を開いた。

「…おっお前に名前呼ばれると心臓が爆発しそうで、苦しんだよ…」

「そんなにボクに名前を呼ばれたくないのか?」

「嫌だ…やだけどどっかで嬉しいって気持ちもあって…ふ、複雑で俺自身わかんねぇんだよ!!」

藤崎があんまりにも可愛くて思わず抱きしめてしまった。と、同時に自分の藤崎への想いも、藤崎のボクに対する想いにも気づいてしまった。

「うわっ!?つ、つばき?」

「ゆうすけ」

「!!!おっおま人の話聞いてんのかよ!!」

「ゆうすけ…」

強くぎゅっと抱きしめれば、言葉とは裏腹に藤崎の態度は正直で、本人は気づいていないのかボクの背中に手を回してくる。呼ぶなと言われると余計に呼びたくなる。君の名前が愛おしいから。

「ばか、ほんとやめろよ…心臓どうにかなりそうなんだよ…」

「ボクもだ」

「は?」

ボクの台詞にきょとんとする藤崎がひどく可愛く見えて思わずときめいてしまった。
すこし距離をとって、でも、藤崎はボクのシャツの袖をぎゅっと掴んだままだ。ホントに可愛い兄だ。

「ボクも君の名前を呼ぶ度にどうにかなってしまいそうだ」

「なんだよそれ…」

「君の名前を呼ぶ度に君が好きになって行くってことだ」

「はぁ!?何恥ずかしいこと言ってんだよお前!!」

顔を一層赤くする藤崎がそう大声をあげてふいっと俯いてしまった。

「ばっバーカバーカ!!」

「あぁバカなのかもな、バカになるほど君が好きだ」
照れを隠すようにバカを連呼する可愛い藤崎にボクは怒りもせずにまた藤崎との距離を縮める。

「好きだよゆうすけ」

「…俺も、さすけ…」

そっと耳元で囁けばボクの肩に顔を埋める藤崎もそっとそれに返してくれた。
あぁ。ボクの名前を呼ぶ君も、名前を呼ばれて顔を赤くする君も…全てが愛おしい。







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「藤崎。絶対に駄目なのか?」

「何が?」

「名前だ」「…ふたりっきりの時だけ許してやるよバーカ」