「奥村くん、好きやで」
「ありがとう」
「……」

はぁ。俺は隣にいる奥村くんに聞こえないように心の中で盛大な溜息をついた。その奥村くんはというと、顔を赤らめて俯いている。そんな姿もかわええなぁ。かわええんやけど、俺は今悩んでいます。

「志摩?」

黙りこくってしまった俺を不思議そうに見るそんな姿もかわええ。
ホンマ俺。奥村くんにぞっこんなんやなぁ。って思う。
でも、奥村くんは?
毎日のように贈る「好き」という言葉に奥村くんはいつも「ありがとう」しか言わへん。俺たちが付き合い出したのは最近や。OKされたんやし、別に嫌われてるんやないとは思うんやけど、でも、それでも、一度も奥村くんから「好き」なんて聞いたことなかった。正直不安になるやろ…

「奥村くんは?俺のことどう思っとる?」
「え?なんだよ急に…」

「俺、奥村くんの気持ち知りたいねん」
「……」

我慢できなくなった俺は思い切って奥村くんと向き合って、普段はめったにしない真面目な顔になって言った。

「奥村くん?」
「……。言わない」

なかなか帰ってこない返事に名前を呼んで促せば、思ってもいなかった答えが返ってきて、ふいって奥村くんは顔を背ける。

「えぇ!?なんで??」
「言わなくてもわかってんだろ?」

「言わなわからんよ!いや、当ってて欲しいんやけどね!!それでも奥村くんの口から聞きたいねん!!」
「嫌なもんは嫌だ!!」

「だからなんでなん!?たった一言でええねんやで!!」
「しつこいぞ志摩!!」

一向にこっちを見ようとしない奥村くんの表情は読めなくて、照れてるのか、本当に怒っとるのかもわからん。表情が伺えないから俺も奥村くんから目を離す。
なんかむかむかしてきた…。
ホンマに好きなんは俺だけなんやないんかな?
「好き」の一言がもらえなくってどんどん不安になってきた。
奥村君は流されやすいから、断れなくって俺の告白をOKしたんやないんかな。って柄にもなくネガティブ思考にまでなってきた。

「好き」なんてたったの2文字やんか。

「はぁ?」

しまった!!つい口に出してしもうた!!
いや。でも、そう言うつもりやったんやし別にええねんけど。

「俺への気持ちなんてたったの2文字ちゃうんか!?」
「……」

黙る奥村くんを見れない。
何で黙るん?違ったんか?奥村くんは俺のこと好きと違ったんか?

「お前への気持ちは2文字じゃねぇよ」

考えていたことを、直接本人に言われると相当きつい。
もう、なんも考えたくなかった。やって、少なからず奥村くんは俺のこと好きやないんやから…

「そ、なんや。わかりました。もうええわ。」
「志摩?」

もうここから消えたい。その一心で俺は立ち上がった。溢れ出そうな涙を堪えている俺に奥村くんはただ目をぱちぱちとさせて見ていた。

「志摩、あのな俺…」
「もうええねんて!!言わんでええよ。好きやないんやったら俺のこと振ってくれてもっよかったやねんで。付き合おうたりなんてせんでよかったのに」
「……」

あぁ、もう!!声が震えよる!!
奥村くんはまた黙りよるし、人が決死の思いで話しとるのに。

「ばか。ばか志摩ッ!!」
「なっ!?ばかってなんやの!?」

いきなり腕を引っ張られて人を馬鹿呼ばわりって。なんやの、ホンマ。

「今、俺がお前に思ってる2文字の言葉なんて「ばか」だけだ!!」
「お、くむらくん…?」

「お前のこと「好き」で終わるつもりはねぇよ!!俺はお前が「好き」なんじゃなくて「大好き」なんだよ!!分かったかばか志摩!!!!」
「……ぶふぉっ」

顔を茹蛸みたいに真っ赤にして俺を睨む奥村くんに思わずふいてしまった。
さっきまで零れかかってた涙が嘘のように引いてしまった。
確かに奥村くんの気持ちは2文字なんかじゃなかった。

「ホンマや、4文字や…」
「恥ず、かしいから、だから言いたくなかったのに…」

なんかぶつぶつ言いとりますわ。ヤバイ。にやけが止まらない。
俺の腕を掴んでた奥村の手を払い退け奥村くんに抱き着いた。

「おわっ!?し、志摩?」
「堪忍な、奥村くん。あんな事言ってもうて。」

「おう。悲しかったぞ!あんな事言われて」
「せやかて奥村くん一度も好きや言うてくれんかったですやん。不安になりますよ」

「ごめん。これからは俺もちゃんと気持ち伝える。俺は志摩が大好きだ!絶対離れたくねえ。だから、お前も俺を離すな」
「おん…。ありがとお奥村くん。俺も奥村くん大好きやで、絶対離さへんよ」

そっと告げた愛の言葉に甘えるように互いに強く抱きしめ合った。
初めて聞いた奥村くんの気持ち、すごく嬉しかったで。
あんなに不安だった気持ちも今ではどっかに行ってしもうた。
俺の奥村くんに対する気持ちももう2文字じゃ足りひんよ。
これからは「大好き」を毎日君に贈るよ。