志摩に触れたくて、自然の流れのつもりで志摩に手を伸ばせばさらりと避けられてしまった。ズキリと痛む心臓を押さえつけ、ケチとわざとふくれて見せる。
積極的に動いてみても効果はいまいちだし。どうしたら志摩に触れるんだろ、触れて貰えるんだろ、そんなことを考えていて、ふと気付けば俺は何故か天井を見上げていた。

「し、ま…?」

何が起きたのか分からず、ただただ自分と天井の間にある志摩の顔を除きこむことしかできなかった。

「……」

問いかけの返事も貰えないまま沈黙が続けば、嫌でも頭は冴えてきて、今の状況を理解した頃には俺の顔は真っ赤だった。
だって、俺は今志摩に押し倒されている。

「…しま、」

「おくむらくん」

「…っ!?」

ただ何時ものように名前を呼ばれただけなのに、かぁっと身体中が熱くなった。
次第に近くなる志摩の顔はほんのり頬を赤く染めて潤んだ瞳で酷く色っぽかった。
キス、されんのかな。なんて考える間にも互いの唇は触れそうな距離まで近づいていた。
そんな顔で見詰められたら拒むことなんか出来なくて、むしろずっと望んでいたから、だから志摩がしたいようにさせた。
ちゅっとリップ音がしてから静かに志摩の唇が離れた。
そしてそのまま志摩が俺に覆い被さる。その時に志摩からふわりと甘い香りがした。

「…し、ま?」

「……」

「……」

「…ひっく」

「…志摩まさか、」

こいつ酔ってる!!
志摩からは甘ったるい酒の匂いがした。
この匂いは確か、シュラのチューハイだ。何で志摩が飲んでんだよ…
ムスッとしながらくんくんと志摩の首もとを犬の様に嗅げば擽ったそうに志摩が体を捻る。

「なんだ…酔った勢いか、」

少し期待した自分が馬鹿みたいだ。
初めてのキスだったのに、志摩はきっと覚えていない。気にも止めてないんだろうな。
そう思うと目の奥がツーンとして泣けそうだった。そんな俺の涙を志摩がベロりと舐め掬った。

「…奥村くん」

「志摩やめろよ、お前酔ってん…んっ!?」

志摩への投げ掛けの言葉は志摩の唇によって閉ざされた。
だけど今度はさっきとは違う。にゅっと舌が口の中に割り込んできて生暖かい志摩の舌が咥内を暴く。
息が続かない俺は喘ぎながらただただ生理的な涙を流すだけだった。

「ふぁ…んん、ぁっ…ふ」

「…奥村くん、…………き、」

「ふぇ?」

奥村くんしゅき…。唇が離れた時に確かに志摩はそう言った。好き。志摩が俺を…好き。
ずっと求めていたその言葉は思ってた以上にストンと静かに落ちてきて、心臓がぽぅと温かくなった。

「…す、き?志摩が俺を?」

「おん…大好きや」

その言葉と共に今度は額に甘いキスが落とされた。
ごめん、志摩。おれ、卑怯だから、志摩が酔って覚えてないのを良いことに、志摩に触れようとしてる。
もう、俺たちは戻れないかもしれない。友達の関係に…。
今度は俺から志摩に抱き着いてキスを贈る。そして志摩の耳元で囁いた。

「しま、お願い…抱いて?」

知ってるか?志摩、その時のお前は笑ったんだよ。








next→