シリアス志摩燐です。




どうして俺は生まれた…


「奥村くんッ!!!」

遠くから聴こえるあいつの声。
返事がしたい…俺はここに居ると、大丈夫だと、あいつに伝えたい。

「…っ」

でも、声が出ない。
出そうとすると喉の奥が焼けるように熱くてひりひりする。
痛い。痛い。痛いよ…


―――しま










俺は今ヴァチカン本部の命により監獄に閉じ込められている。もう3年になる。
捕まったのも仕方ない。…だって、俺は

「仲間を傷付けた気分はどうですか?」

「…」

「はは、答えたくない…ですか」

あなたのせいで沢山の方が傷ついた。あなたのせいで死ななくてすんだ人が亡くなった。あなたなんか生まれてこなければよかったのに。散々言われてきた言葉を今日も浴びせられる。その言葉に俺は何も返せなかった。

だって、俺はみんなを傷付けた。大切な人の体も、心も…
雪男やシュラとの約束を破って、ひとり敵に立ち向かった結果俺はみんなを巻き込んだだけだった。
魔神の力を抑え切れなかった俺の暴走っぷりを見たあいつ等の顔は酷く歪んでいた。
俺が魔神の落胤だと初めて知ったあの時と同じ顔。
俺に向ける怯えた眼差し、あの時と同じ…

今、俺の目の前に居るこの偉そうなおっさんだって、
内心俺にビクビクしてる。瞳を見ればなんとなくだけど分かる。

あぁ、結局俺は化け物でしかなかったんだ…
何で俺は生きてきてしまったんだ。
俺なんか生まれてこなければよかったのに。

そう言えばそんなことちゃうよ。って、そう言うあいつの声が聞こえた。
そういえば昔そんなこと言われたことような気がしたな。


そんなあいつがどうしようもなく愛おしくて。今回のことで壊れてしまった俺等の関係だけど、でも、どうしてもあいつには…志摩には伝えたかった。
俺の、俺の気持ちは変わってない。もう3年も会ってないけど、俺の気持ちは変わってないから。本当だからって…
あの時の、俺がこいつらに連れてかれた時の志摩の顔。
泣きそうな顔をしていたことは鮮明に覚えてる。
騎士團の奴らに囲まれててチラッとしか見えなかったけど、最後まで俺の名前を叫んでいたような気がする。
今、志摩は、あいつらは無事なのだろうか…今、どうしてるんだろうか
志摩だけじゃなく、雪男にも、シュラにももうずっと会っていない。

「おい、魔神の落胤」

「……」

「返事をしろ魔神の落胤」

俺は、俺は奥村燐だ。俺にはちゃんと名前がある…俺は、俺は…

「奥村燐」

「…っ!?おまえ、」

現聖騎士のアーサーっていったけか、
相変わらずダッセー格好してやがるぜ。
今の俺が言えたことじゃねえけどな。

「なんだよ」

「お前をここから出してやろう」

「え…?」

何を言ってるんだこいつは、だって、俺は魔神の子。危険な存在。化け物だ。
こいつらがここから俺を出すハズがねぇ。

「その冗談、笑いを取りたいのか?ハハハ…」

「ハハハ、俺も冗談だったらいいんだけどな」

「ハハ………は?」

こいつは本当だ、って言う。本当に?本当に俺はここから出れるのか?何で、だって…

「俺は魔神の…」

「ちゃうよ」

「!!……っ」

俺の声を遮るように聞こえた聞き覚えのあるこの声は、
ずっとずっと求めてきたこの声は…

「し、まぁ…」

「はは、相変わらずやね奥村くん」

にへらと笑う志摩の笑顔は3年前と何も変わってはいなかった。
変わったのは少し伸びた身長と、ふとした瞬間に見せる大人びた表情。
あとは、その身に纏う黒いコート。

「どうして、ここに…」

「奥村くんに会いとおなって、来てしもおたわ」

「…っば、か…ばか、何できたんだよ…」

ここはお前の来れる場所じゃないって、俺が言えばまたヘラってお前は笑う。
でも、今度の笑顔はどこか苦しそうだった。
志摩は連れていたヴァチカン派遣の監視員とアーサーに2人に外に出るように言った。

「志摩、祓魔師になったんだな」

「おん。だいぶ頑張ったんやで、坊も子猫さんもみんな祓魔師になってん」

まだまだ下っ端やけどな。ってそう苦笑する志摩を見れなくて俯いてると志摩が俺の頬に触れてきて思わずびくりと跳ねてしまった。
だって怖い。何にも変わってないと、変わってないって信じてたのに。
変わらなかった身長だったのに俺よりも頭1個分伸びた身長。
大人びた優しい表情。少しごつくなった手。低くなった声。よくよく見てみれば沢山のことがあの頃とは変わってしまっていて、志摩の気持ちも変わってしまったんじゃないかって思ってしまった。

「迎えに来たんよ奥村くん」

「迎えって…」

「俺等実は奥村くんが捕まって1年ぐらいで祓魔師になってん…」

それから志摩は俺をベットに座らせ、俺が捕まってからの出来事を話してくれた。
俺等納得できんくて、奥村くんは俺等を助けようとしてくれただけやのに。って、
だから俺等頑張って一人前の祓魔師になって奥村くんを助けよう。って、
坊や子猫さんの説得の御陰で明陀の人も力貸してくれる言うてくれたん。って、
若先生や霧隠先生も、今まで奥村くんと過ごしてきた仲間たちみんながやで。って、
それって…

「奥村くんは沢山の人に愛されとおよ?みんな奥村くんを助けようって、力貸してくれたんよ」

奥村くん。とまた優しい声が降ってくる。志摩を見てからずっと堪えていたものがポロッと頬を伝って手の甲に落ちた。その1粒の涙が流れた途端止めどなく涙が流れ始めた。止めようと思っても止まらなくて。でも、志摩には見られたくなくて隠しきれない涙を顔を俯かせて隠した。

「ぅ…、ひっく…」
「……」

「し、ま…しまぁ…しまぁあああ!!うわぁあああんっ…!!!」

大声を上げて泣き出した俺を志摩は優しい腕で抱き寄せて頭を撫でてくれた。何も言わずにただただ頭を撫でてくれた。俺が泣き止むまでずっと黙っていた志摩だったけど、俺が落ち着いたのを確認してから俺の顔を上に向かせた。

「俺らが奥村くん奪還騒動を起こすのが厄介だって知った騎士團の連中がな、条件出してきたんよ」

「条件…?」

まだ涙ぐむ俺の瞳をじっと見つめる。強く、だけど凄く優しい瞳にドクリと心が弾んだ。
あぁ、やっぱり俺は志摩が……好きなんだ。ずっとこの暖かさを求めていたんだな…。そんな事を考えてるとまた志摩がぎゅっと俺を優しく抱きしめてくれた。

「おん、俺等が奥村くんを…その…言い方悪いんやけど監視、と言う名目で傍におって奥村くんが危険やないって証明するんよ」

確か昔子猫丸にもそんな約束をしたな。そんな事を思い出しながら俺は志摩を見上げた。俺はそれが証明できなかったから今こんな場所に閉じ込められてるんだって。そう言えば志摩は悲しそうな程目尻を下げてまた苦しそうに笑った。

「ちゃうよ、奥村くんは危険なんかやない。だってあれは俺等を助けようとしただけやないの…ちょっと力加減間違っただけやないですか」

「でも、俺は…化け物だから…魔神の落胤だし。生きてる、価値なんて…」

「ちゃうよ!!全然ちゃうよ奥村くんっ!!」

前の志摩からは伺えない程怖い顔をしていた。そして悲しい顔を…。
何でお前がそんな顔をすんだよ…なんてそう言えば志摩は俺を抱きしめる腕を強めた。

「自分の事生きてる価値がないなんて言わんといてや!奥村くんがおらんかったら俺、生きてきえへんよ…奥村くんがおってくれたから俺大切な事沢山知ることができたんよ…」

奥村くんの傍におんのが俺の存在理由やねんで。そう今度は優しく笑ってくれた志摩。
そんな志摩にまた涙が溢れてきた。だって、そんな事今まで誰も言ってくれなかったから…
死んでくれと、生まれてこなければよかったと、俺の存在価値を否定する言葉ばかり浴びせられていた。昔からずっと…。胸の奥がじんわりとして、あぁ何にも変わってなんかいなかった。外見は少し変わってしまったかもしれないけど、志摩の気持ちは3年前となんにも変わってなんかいなかった。

「みんなの意見でな、奥村くんの監視役は俺になってん。奥村くんはこれからずっと俺とおんねんで、片時も離れず、俺が、奥村くんが死ぬまでずっと…ずっとや」

奥村くんはもっと愛されたっていいんだって。今まで沢山傷ついて、苦しんできたんだからもう幸せになたっていいんだって、今度は志摩も泣き出した。志摩のその言葉が凄く嬉しくって、おれ、幸せになってもいいのかなって…泣きながら言った。

「当たり前やん。奥村くんはもう十分に辛い思いをしたんやで?今度は奥村くんが幸せになる番や、俺が奥村くんをめい一杯幸せにするから…だから…一生俺の傍におってください」

なぁ、それってプロポーズか?なぁ、志摩。知ってるか?俺の幸せはな…
お前の傍にいれることなんだよ…
そう耳に囁けば志摩は嬉しそうに照れながら笑ってくれた。俺はそんなお前の笑顔が大好きだ。ずっと求めていた笑顔だ。結局俺は志摩の全てを求めていた。

「外でみんな待っとおよ…みんなの所に帰ろ?」

志摩がそう言って俺の手を握る。少しごつくなった手で、少し細くなった俺の手を…
やっとこの暗い監獄から出られる。俺の地獄は終わったんだ。
これからは俺、幸せになってもいいんだよな志摩。

暗い監獄の出口に立つと今更ながら震えてきた。コレは夢じゃないんだよな。もし、一歩でも外に出たらこの幸せな夢が覚めてしまうんじゃないんかって思ってしまって、怖くて動くことが出来なかった。
そしたら大丈夫ってしまが強く強く手を握ってくれた。痛いほどに、コレは夢じゃないって教えてくれてるように。

「コレは夢でも、奥村くんの悪夢が終わるんよ。奥村くんの悪夢が終わって、奥村くんは目を覚まして、また幸せな毎日を送るんよ」

その言葉だけで幸せになれた。そうだ、まだ志摩に1番伝えたかった事伝えてなかった。
そう思って志摩、と小さく呟けば、そんな小さな声も志摩はしっかりと拾ってくれてなん?と聞いてくれた。

「俺、志摩が好きだ。大好きだ。だから…これからも志摩とずっと、ずっと一緒にいたい。志摩といるのが俺の幸せだから、俺はここに居る。志摩の隣が俺の居場所だから…」

「ありがとう。俺も奥村くんが好き。大好きや!だからずっとおってな、俺の隣に。君の存在が俺を生かしてくれとるんやから」

そう言った志摩が先に外に出て明るい世界へ引っ張り込んだ。俺はその勢いに任せて志摩の胸に飛び込んだ。そして幸せな世界で優しくキスをしてくれた。俺もだよ、志摩が生きていて、傍にいてくれるから俺は幸せになれる。生きていける。俺は志摩に引っ張れるままみんなの居る所に駆け出した。みんなの笑顔が待ってる所に…


「おかえり、奥村くん」


「ただいま、志摩」







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シリアス…になってないですかね?
む、難しい…

何か長々としてしまいましたが、
読んでくれてありがとうございました。