燐→←志摩
まだ付き合ってません。




ゴロゴロ、





窓の外で荒々しく鳴く雷に耳を塞ぎながら机の下で縮こまる。
震える体で、何処に追いやればいいのか分からない恐怖と戦いながら志摩は1人、祓魔塾の教室にいた。

「な、何でみんなおらへんのや〜」

今日の朝、嵐が近づいているから気をつけるよう子猫丸に注意されたのを思い出す。
そして、今日は運悪くみんなは任務に出払っていて、塾は任務のない志摩と燐だけだったのだが、

「奥村くん今日任務ないはずやのに…」

燐の姿が一向に見当たらないのだ。任務が入ったと言う連絡も受けていないので今、燐が何処にいるのか志摩には検討もつかない。

「雷も苦手なんよぉ〜、」

虫が苦手な上雷も苦手なのは全く情けない話なのだが、ぐっと泣くのを耐えて必死に嵐が過ぎるのを待つ。

ブーブー…

その時、志摩の携帯が鳴った。今の志摩にはそんな携帯の音にも酷くビクついてしまう。
恐る恐るケータイを開くと其処には“奥村くん”の文字。急いで通話ボタンを押し携帯を耳にあてる。

「も、もしもし…奥村くん?」

『あ、志摩?今お前、何処にいんの?』

「塾におんねんけど、奥村くんは何処にいてはりますの?」

早く来て欲しい。誰かに傍に居て欲しい。そう願う志摩に思いもよらない答えが返ってきた。

『それがさ、今日塾お前と俺だけでこの台風だろ?だから今日塾休みになったらしいんだけど、お前聞いてなかったのか?』

「……」

き、聞いてへんよ!!!!そんなツッコミも今の志摩には心中で突っ込むのがやっとで声にはならない。
つまり、奥村くんは来ない。先生も来ない。俺1人。
そんな事を考えた瞬間堪えていた涙がポロリと流れ始めた。

「うっ…ひっく……」

『し、志摩!?ちょっ泣いてんのか…??』

「お、おく…むら、くん…おくむらくんっ…」

ぐすぐすと鼻をすすりながら必死に燐の名前を呼ぶ。呼んだ瞬間通話がブツッと切れた。そのことが酷くショックで、それでも雷は鳴り止まない。恐怖と悲しみで涙が止まらなくなり膝を抱えて泣いた。
ウザイ思われたんやろか、雷何かで泣いて呆れられたんやろか…

「会いたいよ、奥村くん…」

言えば余計に会いたくなるのに、言わずにはいられなかった。
瞬間外がピカッと光って数秒後ゴロゴロ、ドーンッと大きな音が教室に響いた。どうやら雷が近くに落ちたようだ。

「しまぁー!!!!」

雷の音と同時に勢い良く塾の扉が開いた。
涙を溜めて扉の方を振り向くとそこにいた人物は、

「お、おくむらくんっ!!」

燐が息を切らしながらびっしょり濡れて立っていた。この雨の中走って来てくれたんだ。
そのことに酷く安心してまた涙が溢れた。でも、これは恐怖とか悲しみなんかじゃなくて、安心や喜びの類の涙。こんな嵐の中びしょ濡れになりながら自分の所に駆けつけてくれたのだから嬉しくないはずがない。

「志摩ごめっ、俺お前が雷怖いの知らな―…」

「奥村くんっ!!」

燐が話してる途中だったが志摩は燐に思いっきり抱きついた。強く強く。

「し、しま!?」

「奥村くん堪忍え!しばらくこのままでいさせてください!!」

離れとうない。今は誰かに縋りたい。燐を強く抱きしめて胸に顔を埋めると、燐も戸惑いながらおずおずと志摩の背中に腕を回してくれた。

「大丈夫。俺がいるから」

「ん、うん」

すっと顔を挙げた志摩の顔は、涙の流しすぎで目の周りがほんのり赤くなっていて未だに濡れてる瞳もどこか色っぽい。垂れた瞳に溜まる涙を掬おうと、頬に手を添えると最初はびくついたが触れた瞬間安心したのか志摩から頬を擦り付けてきた。それが妙に可愛く思えてキスしたい衝動にかられた。

「奥村くん、ありがとぉ…」

ホッとした表情でにこり笑った志摩に燐の中で何かがプツリッと切れた音がした。

「しま、俺が忘れさせてやるよ」

「え?」

燐が何を言っているのか分からないのか首を傾げる志摩の頬を両手で挟み、ちゅっとリップ音を鳴らし触れるだけのキスをした。
何が起きたのか分からなかった志摩は目をいっぱいに見開いて燐を見つめる。

「お、くむらくん?」

「俺が雷なんて忘れさせてやるよ、俺だけしか見れない様にしてやる」

「おく…んっ」

またひとつ、今度はさっきよりも長いキスをした。何ども角度を変えては志摩の下唇を甘噛みしたり舐めたりする。苦しくなったのか志摩がはっと息を吸おうと口を開けた。それを見逃さなかった燐は志摩の舌に自分の舌を絡ませた。

「んぅ、あっお、くむら…んんっ」

「はっ…んっ……」

水音が響く教室で深いキスを続ける2人。最初は逃げていた志摩は今では自ら舌を絡ませてくる。それがまた可愛くて燐も志摩を強く抱きしめながらキスに没頭した。
どこかでまだ雷が落ちているが、今はもうそんなに気にならないのか気付けば志摩は泣き止んでいて、キスを終えた後も余韻に浸り燐に体を預ける様に凭れ掛かっていた。

「は…おくむらくん。もっと…」

「えっ!?は…えぇ!?」

自分からキスしてきて何驚いてるん?そう言う志摩を目をまん丸くして見つめる。
志摩は目に生理的な涙を浮かべ、燐の首に腕を回してきた。もっともっと、とねだる志摩にもう我慢の限界なのか燐は口角を上げて志摩との距離を更に縮めた。

「ん、志摩ん中俺でいっぱいにしてやるよ」

「はは、そうしてくれると助かるわ」

「好きだよ志摩、」

「俺も…」

好きと伝えてまた唇を重ねる。
もっと、もっと、俺ん中奥村くんでいっぱいにしてや。
今はもう外で鳴り響く雷の音は志摩の耳に届くことはなかった。
変わりに届くのは愛しい人の声と、心臓の音と、2人の舌が絡む水音だけだった。