目が合った。すると彼女はくるりと背を向けて、何事もなかったかのような顔して、立ち去ろうとする。足早に、まるで逃げるように居なくなるから、僕はその手を引っ張った。着物の袖を掴み引き寄せる。


「ねぇ、何で僕のことは避けるのかな」
「…避けてません」


そう言いながらも彼女の目は下を向いたまま、ちらりともこちらを向こうとしない。そう言えば前に、目を見ればその人が嘘を吐いてるか分かるって、教えてあげたっけ。律儀に守っているらしい。別に、そんなことしなくたって嘘かそうじゃないかくらい、分かるのに。少なくとも、僕には。


「嘘つきは嫌いだなぁ」
「嘘じゃないです私は仕事があるので、」
「ふぅん。さっきは左之さん達と楽しそうにお喋りしてたのに?」
「……」


ほんの少しだけど、肩が揺れる。ほらねやっぱり。仕事なんて、無いくせに。嘘まで吐いて。どうしてそうやって逃げようとするかな。だから余計に困らせたくなるのに。


「……どうして私に構うんですか」
「ん?」
「茶化さないで下さいよ…そういうのはもっと別な人にして下さい……」


段々と声が細くなっていくのは、きっと泣くのを堪えてるからだよね。いつもそうだ。声を殺して、浅く呼吸して、そうやって泣くのを我慢する。頭の上に手を乗せると、振り払うわけでもなく、じっとしてるくせに。泣きたいくせに、絶対それを見せようとはしなくて。


「…優しくされると忘れるのが辛くなるんです。男の方には分からないと思いますが、」
「分かるよ」



その時初めて、彼女はこちらを見上げた。僅かに濡れた瞳と、視線がぶつかる。


「だから僕も、姫ちゃんがこっちを見てくれないと寂しいな」
「…っ…」
「傍に居てほしいんだよ。他でもない、姫ちゃんにね」







どうせこういう仕事だから、僕がすぐに死ぬんだとでも思ってるんでしょ。そんなわけないのに。それでも、どうしてもそうやって泣きたくて、しかも泣き顔を見せたくないって言うんなら、ほら、こうやって君を抱き締めちゃえばいいだけでしょ。まぁ、もう絶対離したりしないんだけどね。



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(13/01/08)
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