温もりに包まれれば包まれるだけ、私は心の奥がすぅっと暗くなっていく気がしていた。まるで、胸に見えない穴が空いてしまったかのように。まるで、大地を裂いて生まれた闇路に引き摺り込まれるように。自分で想像しておきながらそれが怖くて、目の前の灯りに縋った。


「どうかしたのか?」
「…なんとなく…こうしていたくて…」
「んな嬉しいこと言うんじゃねぇよ。男ってのはすぐにその気になるんだぜ?」


顔の見えないままに囁かれ、私はびっくりして顔を擡げた。変わらず、優しい原田さんが居て。安堵が勝って、私はその広い背中に顔を埋めた。原田さんが苦笑している様子は、声音から判る。


「何だか、今日は随分…」
「…積極的?」
「お前なぁ…」
「業突張りでごめんなさい…でも、折角、原田さんに会えたんだから」


段々、自分の言葉に恥ずかしくなって、その先は有耶無耶にしてただただ背中に回した腕に力を込めた。私が必死にしがみ付いたとしても、びくともしない。何度も何度も私を、そして沢山の人を助けてくれた。


「今だけ、今だけで良いんです」
「だめだ」
「…え……」
「今だけになんかすんな。俺は、お前を離すつもりはこれっぽっちもねぇんだからよ」
「!」


あまりの嬉しさに、言葉も涙も忘れて、私は惚ける。ぽかんと見返す私の顔は、どれ程間抜けに映っているんだろう。
力が抜けていた私は、ふいに身体が軽くなったような気がした。実際、私自身は畳を離れていて、ぐるりと視界が回る。襲う衝撃に目を瞑ったが、感じたのは柔らかい痛み。いつの間にか私は原田さんの前に座らされていて、その腕の中に居た。


「…は…原田さ、ん…」
「お前が後ろに居たんじゃ、俺は何を見ればいいんだ?」
「あの、でも、これは…」
「こうすれば、お前も俺も安心だろ」









求めていたのは、変わらず照らしてくれる光。一度手元に訪れてしまえば、次に襲うのは別離だと思っていた。温もりを知ってしまえば、闇へと帰るのはより辛い。だから手を伸ばすのを恐れていた。愛する人の腕に抱かれて、暖かさに酔い痴れる。きっともう、独りは耐えられないだろう。けれど今も未来も、一人では無いから。



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(12/03/02)
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