「とてもなめらかで美しい肌だ」
「……………」


政宗は顔を反らして、松永を無視する事に決めていた。

結局あの後。
欲神松永に全ての衣をはぎ取られ、今では下帯でさえつけていない。

「まるで陶器のようだ」

松永の手のひらが政宗の胸の辺りを撫でた。

「例えて茶器と言ったが、言い得て妙だったかな」

松永の手が政宗の胸の尖りをたかすめて行った。
ぴくりと政宗の眉が跳ねる。

「おや。ここが弱いのかね」

松永が面白がって、胸の頂きをもてあそぶ。
政宗は不快にくっと息を止めた。

「ふうむ。竜神の気持ちも分からなくはないな」

松永が胸の蕾をいじりつづけるので、政宗のそこが堅く尖ってくる。

「どうせなら、味見もしてみようか」
「はぁ!??」

政宗は反らしていた顔を松永に向ける。

「聞こえなかったかね?もう一度言おうか?」
「見るだけって言ったじゃねぇか!」
「気が変わっただけだ。そう嫌がらないでくれたまえ。竜神にはこの身を差し出しているのだろう?」

松永の指が政宗の菊座をそっと撫でた。
政宗の膚にぞわぞわと粟肌が立つ。

「ま、ま、待て!や、止めろっ!このくそオヤジ!!」
「大丈夫だ。これでも竜神よりは長く生きているのだから、卿を悦ばす事はできる」
「そういう問題じゃない!莫迦!触るな!盛ってんじゃねぇ!!!」

松永が笑う。

「身体でまともに動くのは唇だけだろう」

松永はゆるゆると、政宗の後ろに指を往復させる。
政宗は息を詰まらせた。

「どうせ聞くならもう少し、美しい言葉を聞きたいものだ」

(このままじゃマジでヤられる……………!)

身体は満足に動かせない。
小さな雷を出すだけの気力もない。
逃げ道は完全に塞がれている。

「Shit!!!!……小十郎おおおおっ!!!!」



バチッ!バリバリバリッ!!!


思わず叫んだ政宗の呼びかけに応えたかのように、松永の境内で盛大な音がした。

「これは、感心した。もう竜神が来たのか」

松永は政宗を放って、本堂の扉を開け出て行く。

政宗は小十郎が来てくれた事に心から喜んだ。
しかし今この丸裸の自分を見たら、絶対に竜神が怒り狂うと分かっていたので、重い重い身体で精一杯急いで、衣を着る。



政宗が本堂で着物を着るのに懸命になっている間、小十郎はやっとの思いで松永の結界を破り入った。

「魔王の気配がしないと言う事は、滅ぼしたのか、封印に成功したのか?」
「てめぇに教えてやる義理なんぞねぇ」

小十郎は抜き身の刀身を松永に向ける。

「政宗は?」
「そこにいる。心配は不要だよ」
「何もしていないだろうな?」

松永はうっすら笑う。

「聞きたいかね?」
「……………言わなくてもいい。どうであれ俺はお前を滅ぼすだけだ」
「いやはや、闇竜は本当に恐ろしい」
「その名で呼ぶな」
「どうしてだ?独眼竜に聞かれたら困るからか?」

小十郎の眉間の皺が一層深くなる。

「いらぬ事をしゃべるな。さっさと剣を抜け」
「私を滅ぼして、独眼竜を自分の檻の中に再び捕らえるか」
「そんな事はしていない」
「ほう……………。人であった独眼竜を妖に落としてまで我が物にしようとしたのだろう?
 結果は神と生まれ変わったようだが……そうでなければ自分の社に閉じ込めていたのじゃないのかね?」
「それは政宗も同意してくれた事だ」

「独眼竜の幸せを考えれば、血など分けるべきではなかったと思わないか?」
「……………」

「独眼竜が人であったなら、魔王に目をつけられる事も、私に目をつけられる事もなかった」
「……………」

「いや、その前に独眼竜の男としての幸せも奪っているのだな」
「……………」

「結局は卿も私と変わらぬのだよ。独眼竜を"欲し""奪った"だけだ」
「……………」

「なに。責めているのではない。むしろ褒めているのだ。わかるだろう?」


松永の言う事が正論なので、小十郎は苛立ちを隠せない。


その時政宗がなんとか戸に縋りながら、本堂から出て来た。
努力もあって衣服は乱れていない。
政宗の姿を見て小十郎は幾分ほっとする。

「生まれたままの姿でいたのに、衣服を着てしまったのか?」

松永は背後にいる政宗をちらりと振り返りそう言った。
小十郎の顔がまた強ばる。

「片目の竜は何も身にまとっていない方が美しいと思うのだが…………竜神はどう思うかね?」

小十郎の瞳が怒りの色に染まる。

「てめぇ!やはり政宗に手を出したのかっ!」

「卿は、あの艶声を毎晩聞いていたのか。あの美しい膚に指を滑らしたのか…………
 あの柔らかで慎み深い奥へ分け入っていたのか……いやはや、羨ましい事だ」

松永はわざと誤解を招く言い方を続ける。あわてたのは政宗だ。
そんな言い方したら誤解される。

「松永!!?」
「もっと早く卿から独眼竜を奪っておけば、私も長く享楽出来たというのに」
「嘘を言うな!コラァ!」

政宗の必死の否定は竜神には聞こえていないのか、そして松永は続ける。

「卿に操を立てようとしていたのだ。実に健気だったよ」

小十郎は震えている。
怒りと殺気が小十郎を取り巻いた。

「あまりにも卿を愛しているようだったから、竜神が生まれた時の話もしてやったよ。
 好いた者の事は何でも知りたいと言うだろう?そうしたら……」
「小十郎!何も聞くな!」
「……………俺の事を聞いたのか?」

低く重い小十郎の声が政宗に問いかける。

「小十郎」
「……………」

小十郎は政宗に目を合わせられず、堅い石を吐き出すように苦しげに言った。

「酷い話だっただろう。俺は……………。
 いや、言い訳もできない。でもお前がいてくれるのなら、俺はもっとましなものでいられるんだ」

苦しそうな小十郎に、政宗は優しく言葉を紡いだ。

「小十郎。オレはお前を信じてるぜ」
「政宗……………」

小十郎が政宗を見たので、政宗は微笑みかける。

「いいから、とっととこのおっさん懲らしめてオレに自由を返してくれ。割と辛いんだぜ?こうして立ってるのも」

政宗がおどけてそう言ったので、小十郎の心がすっと落ち着いた。
身体の震えもおさまっている。

「熱くなるな。Cool に行けよ?小十郎」




松永は少し意外そうに表情を歪めた。
十分にあおり立てて、竜神を混乱に陥れれば勝機もあると思ったが、政宗の一言でそれが成功しなかった。
欲神は気に食わない。

「……………本当にこれがあの”闇竜”かね」
「おしゃべりはここまでだ」

小十郎は刀をくるりと回して、一度振り下ろした。
刀が黒く光る。

「悪いが最初から本気で行かせてもらうぜ」
「そうか。いや気にしないでくれたまえ。我ら神もしょせんこの世に生けるものだ。命は惜しい」

松永が宝剣を抜くと、社に風魔とその眷属が音も無く現れた。
その数500人はいるだろう。
政宗が、松永の手下の数の多さに驚き、目を開く。


そして。


ざ、ざ、ざ、ざ……………。
規則正しい足音が聞こえる。

「行くか……………」
「ああ……………」
「仕方ない……………」

髑髏を彷彿とさせる白い面頬を被った男が3人、ゆっくりと小十郎に近づいて行く。

「三好三人衆か……………久しいな。中身は変わっているのか?」

政宗の驚きをよそに、小十郎は不適に笑う。
竜神が首を鳴らすように回すと、後ろに撫で付けていた髪が乱れ落ちた。

「皆平等に血の涙を流させてやろう。……………かかってきな」

小十郎の刀に黒い雷が纏われた。







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