まだ若い竜神や火神が生まれるもっと昔の話である。 後に「神魔戦争」と呼ばれる戦争の話だ。 この地には、もともと神だけがあった。 人々の数も少なく圧倒的に自然の力が強い時である。 平穏な時代であった。 神は動物も植物も大切にしていたのだが、自分の姿に似た人間には特に興味を持っていた。 ひっそりと、人間と会話を楽しむ神でさえいた。 神がそうして無意識に人間を特別視してしまった為か、 人間が生き物として優れていたのかは、今となっては分からないが人間の数が膨大に増えた。 はじめ神は人々が発展してゆく姿を楽しく見ていた。 可愛い我が子達が成長していくのを見る母親のようにだ。 争いはあったが、狩りの獲物を取り合ったり、好いた女を取あったり可愛いもので、他の動物達と変わらぬものだった。 しかし、次第に人間達の間で争いが耐えなくなってきた。 豊潤な地をめぐり、戦う規模がどんどん大きくなる。 武器を持ち、同族で殺し合い、血縁関係でも憎しみ合う。 これはどうしたものか。 神々も頭を悩ませていた。 何度も争いの仲裁に入っても、間に合わず争いはあちらこちらで勃発する。 その頃だ。 魔王と呼ばれるものがこの地に現れた。 神はその存在に戸惑った。 恐ろしいまでの力を持ち、そしてその核には荒魂の色しか見えない。 魔王が現れると、次々魔が増えた。 それが明智や濃姫、蘭丸だった。その他にも沢山の魔が奈落から這い上がって来た。 そして魔王は人を悪に誘い自分達魔が居心地のよいように、この地を闇に染めるため神に戦をしかけたのだ。 神と魔の戦は何千年と続いた。 地は荒れ、 山は崩れ、 川は濁り、 海は津波を起こし、 植物は枯れ、 動物は怯え、また住処を失った。 それでも人々の争いと、神と魔の争いだけは止まらない。 その時、新しい神が生まれた。 どういう時であれ、新神が生まれるのは神にとって喜ばしい事。 しかし、生まれたばかりの神は弱い。 力の使い方も上手く行かない物だ。 神々は魔王から新神を守ろうとした。 しかし、その新神は魔王とも並ぶ強力な力を持っていたのだ。 黒い竜の姿の新神は、魔王の気配を敏感に察知すると、神々が止めるのを聞かずに魔王に戦いを挑んだ。 黒い雷が魔を襲い、黒竜の牙が魔王に喰らいつく。 黒い竜と魔王の対決の決着は3日間におよんだが、黒い竜の力を恐れ滅ぼされる前に、魔王は自分の世界に戻って行った。 そこから再び魔王が出て来れぬように、黒い竜は入り口を閉ざしてしまった。 喜んだのは神々だ。 素晴らしい力を持ち、魔王を封じ込めた黒い竜を誉め讃えた。 しかし、黒い竜は神々にも襲いかかったのだ。 なぜ仲間である筈の自分達にこの黒い竜が戦いを挑んで来るのか分からない。 黒い竜は、神であれ、魔であれ、人間であれ、動植物であれ、すべてを無に還そうとしていた。 暴走する黒い竜を止めようとしているうちに、その核が見え始めた。 自分達神々の核と異なっているのだ。 確かに魔とは違う。 しかし、その核のほとんどが荒魂の色をしていて、和魂の色が酷く薄い。 人々の戦で生まれる憎悪。 魔王の瘴気。 動植物の怯え。 その影響で黒い竜は、異常な核を持って生まれ落ちてしまったのだ。 神々は必死にこの黒い竜を説得した。 僅かにでも和魂を持っているのだから、分かり合えるかもしれない。 特に軍神、上杉謙信が主だって黒い竜と話し合った。 神々が自分と戦おうとせず、話し合いばかりを求めて来るのに次第にめんどくさくなってきたようで、黒い竜はこう言った。 『自分に一切の指図をしない事。そして他の神は自分に従う事。それを約束出来るならば、神としての使命をまっとうしてやろう』 ■□ ■□ ■□ ■□ 「そして神魔戦争は一度終焉を迎えた。 竜神は黒竜と呼ばれずその荒魂から 松永の話を聞いて、政宗は眉を思い切りしかめている。 「信じられねぇな」 「そうか。ならば軍神や、炎神に聞いてみるといい。闇竜の事をよく知っている」 「……………」 松永がわざわざ「闇竜」と言ったのが政宗には気に入らなかった。 「そんな竜神を優しいなどと言うものだから愉快だったのだ。 他の神もただ竜神に付いていっているわけではないというのは、そういういきさつがあったからだ」 「それでも、あいつらが仲が悪いようには見えなかったぞ」 「今でこその話だ。卿が竜神の所に来た辺りからか……あの竜神が次第に大人しくなってきたのは。 それでも他の神々は、心の奥底で竜神の荒魂と力に恐れを抱いている。 若い神は深くは知らないだろうから、ただ神々の指導者くらいにしか思っておらぬようだが」 「……………」 松永は政宗の長襦袢を脱がす。 「あの荒々しい神は、この世の全てを要らぬ物だと思っていた。退屈で何も興味が持てず、己が持つ力を持て余しながら。 そんな竜神が執着してる人間の噂は早くから聞いていたよ。だから私も卿に興味を持った」 「あいつがそんな奴には思えない」 「なぜそこまで竜神を信じれるのか、それこそ私には分からないね」 「小十郎は……嫉妬深くて、いつもデレデレしてて、腑抜けた事ばっかり言って、莫迦で、阿呆で、やらしい事ばっか考えてて……………」 「……………それで褒めているのかね?」 「褒めてねぇよ」 「……………」 政宗は脱がされた蒼い打掛を見ながら言った。 「それでも、オレには絶対優しくしてくれた。どんな時にでもオレの為になるようにしてくれた。俺の自分勝手な行動だって受け止めてくれた」 政宗は知らぬうちにその唇に笑みをうつしていた。 「そんな奴が、荒魂を持つなんて思えない」 ■次のページ ■異世界設定小説に戻る ■おしながきに戻る |