背中はお願い

金属の擦れる嫌な音がした。同時に水面に足をつける音。

「ヤだね、最近数が多くなってない?」
「……私の思い込みではなかったようだな」

秩序の聖域に姿を現した無機質な敵に、光の戦士と一緒にお互い武器に手をかける。
ここにはコスモスがいる、だからなにがなんでも守らなきゃいけない。

目を覚ましてずいぶん長いこと経って、日に日にイミテーションと出会う回数が増えてきたように思う。
そうして今日も現れた敵にため息をこぼせば、ウォーリアからも疲労を感じさせる返答があった。

かちゃりとイミテーションが武器を構え走り出したのを合図に、わたしたちは地面を蹴った。



重い音を立てて鈍く光を反射するそれが地面に沈んだ。たゆたう水も大きくしぶきをあげる。

「……、……ああ、もうっ」

壊れた水晶の塊が粒子になって消えていく様を見下ろして、本当に嫌だ、と吐き捨てる。
大事な、愛しくてたまらない仲間や弟の姿をしたまがいものと戦わなきゃならないなんて。

「レイ! 気を抜くな!」
「っ、分かってるって……!」

飛んできた鋭い声に答えながら、飛び掛ってきたティファの姿をしたそれの拳を短剣で受け止める。空いている片手でファイラを打ち込んで、すかさずイミテーションたちを距離をとる。
敵の数はもう残り少ない。体力も限界に近づいてるから、さっさと終わらせないと。

サンダーを目の前の敵に放って、砕けたそれの向こうから飛び掛ってきたセシルの姿に咄嗟に反応できず。剣が腹部を掠めた。

(、ケアル)

傷口に手を当てて発動すれば淡く輝く光。熱は引いて痛みも緩和されたのを感じて再び前を向く。

「大丈夫か、レイ」
「へーきだよ。ウォーリアのほうこそ平気?」
「私なら、大したことはない」

飛びのいて、同じく後退したウォーリアと背中合わせの状態になる。そのままで言葉を交わせば彼らしい返事があって。
こちらの様子をうかがうイミテーションたちに意識を向けたまま、「ホント嫌んなっちゃうね。姿も声もよく似てて、仲間を傷つけてるみたい」とこぼす。

「なら、レイは休んでいるといい。あとは私が」
「そういうわけにもいかないよ。アレは人形。分かってるよ」
「だが、」
「……そうだね。あんなのがいるなんて、怖いよ。怖いけど、仲間がいるから。まがいものじゃなくて、本物の仲間が」

初めてイミテーションと戦った時、あの禍々しさにも、仲間や弟に似た姿や声にもざわりと嫌な感覚がした。今でも忘れられていない。それでも、ここまで戦ってこれたのは、仲間たちの支えがあったからで。
だから大丈夫、戦えるんだよと伝えて背後の好きな彼に視線をやれば、同じようにこちらに視線を向ける人がいて。
少しの間の沈黙のあと、前を向いてウォーリアは剣を握り直した。

「……では、背中は任せよう」
「了解! じゃあ、私からもお願い!」
「ああ。――気を緩めるなよ」

頷いて、大きく前へと踏み込む。そうして、無機質な敵へと。大きく剣を振りかぶった。


**

「無事でしたか、2人とも」

心配そうに顔を歪めたコスモス。
片膝をついて頷いたウォーリアの隣でわたしはくるりと一回転してみせる。

「ご覧の通りです。コスモスこそ、お怪我はありませんか」
「ええ。あなたたちのおかげです」
「そうでしたか。なら、よかった」

笑いかければ、コスモスも少し微笑んでみせた。
大丈夫。コスモスも、ウォーリアも、仲間も守ってみせる。ルイスも救う。
守りたい人たちが傍にいて、絶大な信頼を寄せられる相手がいるんだから。守ると言ってくれた人が。

嫌な感覚は完全には拭えないけど、背中を任せると言われて、なぜかとても安心したんだ。だから惑わされるわけにはいかない。大切な人たちのためにも。


「――ウォーリア、これからも背中はお願いね」



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