「そういえば、ジタンは劇団員だって言ってたよね?」

とある飛行艇を眺めたわたしの、唐突な質問。ジタンは一瞬だけきょとんとしてから、得意げにおう、と肯定した。

「タンタラスっていってな、……まあ、劇団っていうのは表向きなんだけど。それなりに人気はあったぜ」

本職は盗賊だが劇団員でもある――以前、目の前の少年、ジタンが話していたのをふと思い出す。
そうして投げかけたのが先ほどの質問だ。

「それじゃあ、結構有名だった?」
「まあな! チケットは売り切れるくらいだし、ある国じゃ定期公演行ってたしな」

自慢気に話すジタン。その内容に、思わず感嘆の声がもれる。
彼いわく、家族同然の仲間と公演をしていたそうで。定期公演をしているその国では、“君の小鳥になりたい”という悲恋劇が大人気だったとか。

劇場艇もあり音楽団員もいたというから、なかなか本格的だ。
この世界でも……ひずみの中でも見られるプリマビスタがその劇場艇だと言うから、どれほど人気だったかは伺い知れた。今まさに目にしている巨大な飛行艇、そうそう簡単には手に入らないだろう。

「……中、案内してやろっか?」
「ほんと!?」

ジタンの提案に、思わず食いつく。胸が踊った。ジタンは笑顔で快く首肯してくれて、意気揚々とプリマビスタの中へ向かって行った。
ここがエンジン室、会議室はあっち……とあちこち案内してくれて、劇や飛行艇の知識が皆無なわたしでも、充分な設備が整っているのがよく分かった。

それから、案内が終わって甲板(というか、劇をするひらけたところ)に戻ってくると、ジタンは向こうに見えるのがアレクサンドリアという国だと教えてくれた。そこで定期公演をしていたとか。
ここまでしてもらって、強く思ってしまうことがある。

「ジタンの出てる劇、見てみたかったなあ……」
「うーん……レイの頼みとなっちゃ断りたくないけど。ちょっとな……」

右手を腰に当て、左手は顎に当て。少し考える時のジタンのクセだ。
そんな彼に、わたしは慌てて胸の前で手を振った。劇を見たいのは事実だが、無理強いすることは出来ない。

「ご、ごめん、気にしないで! いろいろ大変でしょ?」
「うーん、そうなんだよな。劇やりたい奴が集まっても、そもそも時間がないもんなー」

クラウドは意外とノリがいいところがあるし、バッツやティーダもきっと参加してくれる。頼めばフリオニールやセシルもやってくれるかもしれない。
けど、それよりも今は戦いの最中。劇の練習をして、見せてもらう時間なんて、ない……。

「あ、あー」

そうしょんぼりしていると、急にジタンが喉の調子を確認するような声を出すから、思わずジタンを凝視してしまった。いつの間にかわたしとジタンの間は3、4メートルほど距離が空いていた。
彼は美しい青色の瞳を細めて、 恭しくお辞儀をした。

「『今宵、我らが語る物語は、はるか遠いむかしの物語でございます』……」

ジタンは劇中で使われるであろう台詞を、朗々とそらんずる。普段のジタンとは別人のように凛々しくて、麗らかな……そんな美しい声で、それでいて、よく通って心地よく耳に届く声。腹の底から声が出ているのだと分かる。気がつけば全身に鳥肌が立っていた。
この物語はコーネリア姫と、その恋人マーカスのお話だと、役者は言う。

「……『手にはどうぞ厚手のハンカチをご用意くださいませ』」

再びジタンは綺麗なお辞儀をすると、ぱっと顔をあげた。得意げに「どうよ」と駆け寄ってきた彼に、率直な言葉を返す。

「すっごい……鳥肌立った……」
「そりゃよかったぜ! 本当はこれ、オレじゃなくてボスの台詞なんだけどな」

本当はこの台詞から、と軽く咳払いをして、
「『こうなれば我が友の為! 憎きレア王の胸に烈火の剣を突き刺してやろうではないか!』」
「ほ、本物だ……本物の劇団員がいるっ!!」
「お褒めに預かり光栄です、……ってな! レイ、オレのことただの盗賊だと思ってたかー?」
「えへ……」
「心外だぜ……」

一連の流れに思わず2人で笑い合う。
とてもいいものを見せてもらえた、と思った。滅多にない経験。とても嬉しかった。

「本当に感動した時って、簡単な言葉しか出てこないんだね……」
「へへ、ぜひ全部見てほしいもんだぜ」
「……ね、それなんだけど。ジタン、約束してくれる?」

ふと思いついた提案。
ん? と首を傾げるジタンに、わたしは小指を差し出す。

「いつか戦いが終わったら、わたし会いに行くよ。その時、劇を見せてほしいの。ジタンの仲間にも会ってみたいし……」

本当は、決着が着いたら、多分もう二度と会えないんだろうけど。
……少し、少しだけ期待してみたかった。

離ればなれになっても、いつかまた会いたい気持ち。忘れてほしくない気持ち、忘れたくない気持ち。
ジタンにも伝わっただろうか。
ジタンは笑って、わたしのそれに小指を絡めてくれた。


「ああ、その時はまたよろしくな!」
「――こちらこそ!」

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