「そういえば今日、ハロウィンだね」
「だねー」
「ジョウトじゃあまり大きな行事じゃないけどな」
今日はなんとなく集まることになって、場所はマンションの一室。
マツバとミナキくんとカエデと、それにあたし。
紅茶を出して、そんな会話をしていた時のミナキくんの言葉に「まあそう言わずに」と返して、シフォンケーキを乗せたお皿をみんなに出す。バニラ味のシフォンケーキを焼いてみたんだよね。
「お、すごい。これルリが焼いたの?」
「そうよー」
マツバの言葉に頷く。
ハロウィンだから昨日のうちに作っておいたのよ!
「へえ、美味しそうだね」
「ふふ、ありがとう! そう言ってもらえると作ったかいがあるわ」
「ルリ、ほお、頬」
「あっ、はい」
無意識に頬が緩んでいたそうです。いかん。
カエデの指摘に口元を隠しつつ、カエデの隣の椅子に座る。
「私の前でイチャつかないでほしいぜ」
「してないじゃないか」
「この間も似たようなやり取りしたぜ? ウブな思春期か」
「余計なお世話だ」
ミナキくんとマツバの2人は2人でこの言い合い。
まあまあ、とあたしは2人をなだめて、「どうぞ食べて!」と促す。
それでいただきますと各々に言って談笑しつつティータイム開始。
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「さて、一息ついたところで」
お皿を洗い終わって笑顔であたしがそう口にすれば「えっ」とこぼす男性陣。
一方でカエデは得意顔で紙袋を取り出した。あ、プリントのデザインかわいい。
「トリックオアトリート! ……なんて言うつもりでしょ」
「ご名答っ。考えてみたらジョウトに来て一度も言ったことないから、今年は不意打ちです」
「やっぱりね。ちょっと思い立ってお菓子作ってみて正解だったよ」
「ふふふ! じゃあ、改めまして、trick or treat!」
「発音いいのね。……はい、どうぞ」
悪戯っぽく笑ってみれば、カエデから差し出されたのはゴーストポケモンがプリントされた小さな袋。カエデによれば、中にはバタークッキーが入ってるんだそう。
マツバとミナキくんに視線を向けたら、呆れた表情をされてしまった。ですよねえ。あたしももう23歳になっちゃったんだもの。
けれどマツバは、「実は今日は買ったんだよね」とソファーに座ったままの状態でポケットに手を突っ込んだ。え、あるんだ!
「……ん? あれ」
「忘れた? ミナキくんは?」
「私も用意してないよ……まさかこの歳でやるとは思わなかったからね」
カエデが聞けば、ミナキくんは苦笑いを浮かべる。
「ちょっと待ってくれないかい、……確かに入れたはずなんだけどな」
一方で左に座っていたマツバはソファーから立ってごそごそ。
あたしからしてみれば、なんだかかわいいですよマツバさん。かわいいって言ったら不満そうな顔されちゃうから言わないけど。
右では「2人でイタズラできるのは決定だね」と、カエデが笑った。
***
オチはない。時系列はBW長編の主人公(ルリの妹)がイッシュに旅に出た年のことです。