「こんにちはみんな、トリックオアトリート!」

『……はい』

「ありがとう! そしてやった、予想通りだよミコト!」
「どういう意味だよ、コハク」
「すみません」

場所はカノコタウン、今日は年一度のハロウィン。
「今日はみんなに集まってほしいの!」とアララギ博士のお誘いがあったから、紙袋片手に研究所の休憩室に入るなりそんな言葉を放ったら、その場にいたトウコとベル、博士からお菓子を握った手を差し出されて。バッと後ろのゾロアークを振り返ったら、嬉しそうにされた。
チェレンは何も準備してなさそう、と思ってたらやっぱりそうで。それで呆れ顔で彼にそうつっこまれたから、反射的に謝ってた。いかん、失礼だった。

ゾロアークのミコトは、進化して面倒見が良くなったと感じさせるわりにはイタズラ好きな子で。ここにくるまでに「もしかしたらチェレンにイタズラできるかもよ!」なんて話したら、はしゃいでいた彼女。チェレンには少しトゲのある言い方されちゃったけど、やっぱり思った通り、

「……なんて言うのは嘘で、はい」

と差し出された、小さな容器。……ん?

「え、なにそれ」
「お菓子だよ。ハロウィンだろ?」「ほ、ホントに……あ、ありがとう?」

ちょっとそれが予想外で、変な受け答えをしてしまった。え、なに? 予想されてた?
コハクならさっきの台詞、言うと思ってたよ。トウコにだって去年も言われたんだから。なんて、澄ました顔のチェレン。い、一本取られた……! 悔しい!
あと、「こういうイベントって、君、昔から好きじゃないか」だって。そういえばそうだった……!

ちぇー、と呟きながらトウコの隣に座る。博士が苦笑しつつ何飲む?と聞くので、お菓子を受け取りながら紅茶をお願いした。

「じゃあ今度は逆に」
「コハク、トリックオアトリート!」
「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

順にチェレン、ベル、トウコ。
わたしだって準備はしてるさ!

「残念、わたしも用意してあるんだー、クッキーどうぞっ」

と、紙袋から小分けしてかわいいラッピングをした小さな袋をみんなに渡す。もちろん博士にもね。
博士が出してくれた紅茶をお礼を言って受け取りつつ、「今回は3種類作ってみました! 1つがカボチャのクッキーで、ヒトモシの形をしたやつね。それとピカチュウの形がバターで、残りの丸っこいが見て分かる通りチョコチップ。口に合うといいけど」と紅茶に口をつける。あ、アールグレイだ。
ちなみに型は市販のものを使いました。それぞれ3枚ずつ分けられるように作ってみたけど、……味の種類も増やした方がよかったかなあ、なんて今更。でもそしたらハリキリすぎか。

「へえ、カボチャでクッキーなんて作れるんだ」
「うん、ちょっと手間はかかるけどね……あ、そういえばチェレンってカボチャ平気だっけ? 男のひとって苦手なひと多い気がするけど」
「いや。大丈夫だよ」
「それなら良かった!」

そんな会話をして、4人からいただいたお菓子に視線。
開けていいか確認してから中身を見てみたら、トウコはパウンドケーキでベルはマフィンだった。で、チェレンとアララギ博士からは飴。

「ところで博士、どうしてみんなを集めたんですか?」

はた、と気づいたかのようにベル。それでわたしたち4人の視線は博士に集中。
そうだ、わたしたち「集まってほしい」って言われたからこうしてここにいるわけだよね。どうしたんだろ?
ベルの質問に博士は少し目を細めて、

「別にどうという理由はないのよ。こんな風にみんなで集まれるのって、すごく久しぶりでしょう?」

ああ、そういうことだったの。
旅を始めて、厄介ごとに巻き込まれて、みんながバラバラになってしまったような気がして、もやもやして、泣いて。

そう。
また一緒にいる。
きっとみんなが願ってたこと。

それはきっと博士の気遣いで、願いでもあって。

「うん……、よーし、じゃあ、精一杯楽しみましょ!」

トウコの気持ち弾んだ声を合図に和やかな空気が流れた。


(結局イタズラできなかったミコトが不満そうにむう、とわたしを見つめたのは、そのあとすぐのお話)(アオイたちにもあげようと思って持ってきたポフィンを先にいくつかあげたら、それで諦めてさり気なく甘えてきてくれたけど)
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