少し、お話を

3時からのバイトは8時に終わって。
ああ、そういえば、ここのお菓子をマツバさんのポケモンたちが気に入ってるって言ってたな。買って帰ろう。

店員専用の裏口から客専用のドアへと回る。店内へ入ってそのまま真っ直ぐレジへと向かった。カフェとしての提供の他に、レジでも持ち帰り用として包装されたお菓子が販売されているのです。
時間によっては賞味期限ぎりぎりのものを貰えることもあるけど、今日はそれはなし。それに折角だからなにか買って帰りたい。

人間用のものと、ポケモン用のものと。中にはひととポケモン、どちらも食べてもOK!というものもあるけどね。厳密にいえば、ポケモン用のものはひとが食べても問題はなくて(自然から取れたものしか使ってないからね)、フーズやポフィン、ポロックなどを実際に食べて味の調整をしているひとも多い。
このお店の料理はどれも美味しいのは知っているから、決めるのにはしばらく迷って。そうしてやっとこさ手に取ったのは、モモンの実を使ったシフォンケーキと、抹茶とモーモーミルク、生クリームを使用したロールケーキだ。

支払いを済ませて帰路に……、

「あ。ルリさん」

つけなかった。

「ミヤコちゃん」
「お疲れさまでしたー、お菓子買ったんですね」
「うん、お疲れさま。家族とポケモンたちに買って帰ろうと思って」
「えっ、家族と暮らしてたんですか! アタシ、てっきり一人暮らししてるんだと思ってました」

店の前で会った、というか合流したミヤコちゃん。今日はバイトが終わる時間が一緒だったはずだけど、またおしゃべりでもしてたのかな。
あたしの言葉に意外とばかりに目を少しだけ見開いたミヤコちゃんに、いつかはしようと思ってるよ、と返す。
いい加減自立して、1人暮らしはしたい。いつまでも家族に甘えてるわけにはいかないからね。

なんとなく一緒に帰ることになって、2人肩を並べて歩き出す。

「今まで両親が共働きで、妹の面倒も見なきゃならなかったから」
「へー、妹! 1人ですか?」
「うん、こないだ10歳になったばかりなの。8つ離れてるのよ」
「へえ……」

家族の話を少しお互いしてから、ふとミヤコちゃんは冗談めいた笑みを浮かべて軽く肘であたしを小突く真似をしてみせた。

「そうだ、1つ聞きたいことあるんですけど。もしかしてルリさんってマツバさまのことが気になってたりしますか?」
「え」

聞かれた。いや、予感はしてたけど。単刀直入だなあ……。
うーん、いくらなんでも、いきなり一目惚れしたなんて言えるはずもない。

「そうだねえ……。何回か会った印象だと、かっこいいひとだな、って。ミヤコちゃん、ファンなの?」
「はい! かっこいいしバトルだって強いし、でも落ち着きがあってなんとなく儚い感じがして好きなんです。他にも魅力的で実力のあるトレーナーってたくさんいて、ファンクラブも何個か入ってるんですけど、……あ、すみませんっ! アタシつい、」
「あは……気にしないで。ほんと好きなんだね」
「はい……」

マシンガントーク一歩手前の話しっぷりに苦笑するあたしと、赤面するミヤコちゃん。
両手で頬を隠すように覆うミヤコちゃんは、素直で悪い子には見えない。

「……そっかー、ジョウトにもファンクラブってあるんだ?」
「そうなんですよー! ルリさんも入りますかっ?」
「考えておくよ」

これまた苦笑をこぼす。よっぽど好きみたいだ。

そのあとは趣味だとか手持ちのポケモンのこととか、他愛もない話をしてミヤコちゃんとは別れた。


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