映画小ネタ
2012/12/30 00:18
…明かりのない部屋。
珍しく真っ暗な実験室に少し驚き目を丸くしつつ、メフィストは改めて彼女の自室に向かった。
ノックをしても反応はなく、一言をかけ、扉を開ける。
部屋の明かりはついていたが、当の本人はすっかり夢の中で、メフィストは机に顔を伏せて眠る彼女の身体を揺すった。
「レイナ、こんなところで寝ては風邪をひいてはしまいますよ?」
しかし、どれだけ深く眠っているのか、少しうーんとうなっても起きる様子はない。
書類の整理をしていたのだろう。
眠っている彼女の下敷きにされ、文字のびっしりつまった紙が、バラバラになってしまっていた。
呆れたように1つ溜め息を吐き出し、窓の外を見つめる。
祭りで賑わう町中が歓喜に震えていた。
11年に一度の大きな祭り。
「一緒に行こうかと思いましたが、これでは無理ですね…。」
そうして苦笑を漏らし、明かりを消すと山積みになっている本の山に腰を下ろす。
束ねていないレイナの髪をすくように撫で、優しく微笑む。
不意に、彼女の机の傍らにあるものに軽く目を開いた。
見覚えのある、1冊の絵本。
「『忘れんぼうの村と悪魔』…。また随分と。」
まだキレイな状態のままの懐かしささえ感じるその本を手に取る。
それは、6年前の彼女に何度も読み聞かせた自分にも思い入れのある絵本。
『可哀想…』
彼女は、この結末が嫌いだと言いながら、何故か何度も自分に読むことを強要した。
毎日のように。
今さら何故この絵本を出してきたのだろう。
パラパラとページをめくり、メフィストは内心首をかしげる。
すると、あれほどよく眠っていた筈のレイナがゆっくりと目を開けた。
「起きましたか?」
そう声をかければ、不快そうに眉を寄せこちらににらみつける。
まだ寝ぼけているのだろう、眠たい目をこすり、改めてメフィストに視線を向けた。
そして、メフィストの手元の絵本を見て目を見開いた。
「返せ!!」
メフィストから本を奪おうとする手から、咄嗟に身を翻す。
だが、負けじとすぐに手を伸ばす彼女にメフィストは些か不快げに顔をしかめる。
「何ですか、急に。」
「いいから返せ!!」
「そんなに慌てて、何かやましいことでもあるんですか?」
長身のメフィストに敵う筈もなく、高い位置に持ち上げられれば届かない。
苛立ち、意地になって背伸びをすれば、レイナはバランスを崩し、メフィストは彼女の身体を支えつつ、うしろのベッドに倒れてしまった。
その拍子に、絵本に挟んであったものが、ヒラリとメフィストの元に落ちる。
あぁ、と頭を抱えレイナは俯いた。
「…写真?」
それは正十字学園の制服を着たレイナと、自分が並んで写っている写真。
メフィストにも覚えがある。
正十字学園に入学させた時に撮ったものだ。
しかし、何故そこまでこれを見られたくないのだろう。
メフィストは不審に思いつつ、何気なく写真を裏返してみる。
そして、目を見開いた。
マジックで隅に小さく書かれている文字に、思わずクツクツと笑ってしまう。
「…なるほど、これはまた、可愛らしい願い事ですね☆」
「いいから返せって!!」
また手を伸ばす彼女を避け、その腕を引く。
グンッと近づいた距離。
メフィストは愛おしげに目を細め、するりと彼女の頬を撫でる。
「覚えてますか?初めてこの本を読んだ時、貴女はこの悪魔が、"可哀想"だと言いましたね。」
「…忘れた。」
視線を反らし、彼女は漏らす。
メフィストは不快に思うことなく構わず続ける。
「けれど、貴女は決まってその後こう言います。この悪魔が"恐ろしい"と。」
まるで矛盾するような2つの言葉。
同情と、恐怖。
『もしも、この悪魔にあったら、メフィストとの思い出も、なくなっちゃうのかな…』
ただ、忘れることが寂しく、怖い。
こうしている1つ1つの思い出をいつか忘れてしまうのではないかと。
「私は、これから先も貴女から離れる予定はありませんよ。」
自分の頬に触れるメフィストの手に自分のそれを重ねる。
「だから、そんな悲しい顔しないでください、レイナ。」
優しくそう囁き、レイナは目に涙を溜めつつも、笑みを浮かべた。
喩え、貴女が私を忘れることがあっても、
私は、ずっと貴女の傍にいます。
もし、私が貴女を忘れても、私はきっと、
また、貴女を愛すでしょう。
メフィストは、ゆっくりとレイナに顔を近づける。
…写真の裏側には、『ずっと、一緒にいたい』という、少女の想いが綴られていた。
End.