青味を帯びた宝石をふたつ埋め込んで、ミイと鳴く白。小さな雨雲を喉に飼っているようで、それを思い出したように鳴らされてはどうにも放っておくことが出来ない。その上、滑らかな長い尾をするするとまとわりつかせてくるものだから辛抱堪らなく、ゆっくりと毛皮を撫でてはほうっと溜息にも似た吐息が零れてしまう。
 その様子を、主は縁側の縁に腰掛けて気遣わしげに眉を寄せ眺めている。せっかく「あそびにきてやった」とのたまったのだからその通りに振舞えばいいものを、先ほどから素足を時折ぶらぶらさせて退屈そうにもしている。やれやれきっと触りたいだろうに、と毛皮に指を通しながら呼びかけた。
「かわいですよ。恭弥さんも触ってみましょうよ」
「べつにいい」
「そんなこと言わずに。大丈夫、この子はそうそう引っ掻かきませんって」
「ていうかなに、それ」
「え、猫」
「そんなのまえはいなかったじゃない」
「ご近所の子で、ときどき遊びに来るってだけですよ。美人さんでしょう」
「べつに」
「……はは」
 一度話しかけたら一層つまらなそうに口をツンとさせて、水を掻くみたくバタバタと両足が行ったり来たり。
「……ぼくもうかえる」
「帰っちゃうんですか?」
「なに」
「もう少しゆっくりしていってくださいよ。おいしいお菓子もありますから」
「ふん。ならさっさとうごきなよ、ぐずなんだから」
「はいはい」
 よっこらせと屈折していた膝を伸ばし、うんと背伸びして縁側へ向かう。つっかけたサンダルを脱いで床板をギシリと鳴らし歩けば、習うようにすっくと立った主がちょこちょこと後ろからついてきた。肩越しに盗み見たぬばたまの髪の下にある表情は、未だむっすとしていたものの、よく冷えた葛饅頭でも出してやればこれ以上は悪くなることはあるまいと想いを馳せほくそ笑む。庭の敷砂にでんと居座り日向ぼっこをする猫は、あるじのおもりはたいへんですね、とゆらゆら尾を振っていた。
 気まぐれなところだとか、わがままなところだとか。犬か猫かと問われれば猫であろうと答えるものの、喉を鳴らしながら甘ったれていた本物の猫とはまるで真逆だ。甘えるという行為が死ぬほど苦手な主に口元は更に緩み、ああ前を歩いていてよかったと心底安堵する。
(これだけ愛らしい容姿をしてるのに、もったいないなぁ)
 きっとこの主は主という立場を抜きにしても、頭をひとつ撫でてやろうと手を伸ばせば、すぐさまその爪で引っ掻くのだろう。気位の高い野良猫、のような。餌でつって後ろを付き歩かせるだけでも名誉だろうか。思うもののつい欲が頭をもたげて、
「ちょっとだけおててつなごうか? 恭弥さん」
「……は?」
「えっ」
「いえのなかでどうしててをつなぐいみがあるの」
「……」
「そとでだっていやだからね。おおきいいきもののおもりをするなんてじょーだんじゃない」
「……」
 いとも容易く弾け飛ぶ。


(110303)

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