地図を持っていたら、その土地の事を全て知っているだなんて驕りだ。同様に、ネグラが地球儀を持っているからといって、地球という星を完全に掌握している訳ではない。
 もっとなんでもない理由なのだ。立ち止まった時、抱きしめるのに丁度いい大きさだし、たまにくるくると回して眺めるのだって面白いだろう。
 逆しまの道、どこへ繋がるとも知れぬ長い梯子。夕暮れを戯れに追いかけ、夜から逃げる。向かい風に乱れた黒髪もそのまま、彼女は目を細めてこちらを見た。
「迷子だって、案外悪いものじゃないよ」
 上り坂の天辺にある背高信号。ぱっと三色すべてが光った。闇の帳がおりつつある中で、それは目を焼くほどの閃光である。立ち眩んだ隙に、彼女はぱたぱたと軽快な足音を響かせて去っていった。
 なるほど、あれは進めの合図だったのだと思えどもう遅い。全ての光は立ち竦む迷子を追い越し、やがて辺りの光が落ちた。あの子の旅は、まだまだ続く。
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