攫ってくれよ





俺の心と体は誰のものって、いやそりゃ、間違いなく俺のものである筈なんだけどさ。どうしてこんなに自分の思い通りにならねえのかなって、ちょっと不思議に思う。…いや、ちょっとじゃねえな、かなり、思いっきり、メチャクチャ思うな。

眠くなったら欠伸が出る。怪我をしたら痛いと思う。飯を食ったら腹がふくれる。
そういうのと全く同じメカニズムで、お前を見てたら好きだなって思うし、お前といたら楽しいなって思うし、お前に触るともっとって思う。
何でだろう。いつからだったっけ。
出会った頃を思い出してみるけど、多分こんなじゃなかったと思うし、どうしてこうなったかもわかんねえ。

俺の全部を掻っ攫われてしまったようで、この大泥棒、返しやがれとムシャクシャした時期もあった。
だってさ、お前ときたら盗んでおいて詫びの一言もねえし、まるで気にしてない様子でまた俺の新しい一部を拝借してくんだ。
どんだけ持っていくんだよ。俺が自由に使える俺なんて、もうほとんど残ってねえぞ。

でも、頬杖をつきながらお前を見つめて、俺は笑っちまうくらい腑抜けた思考を巡らせる。

好きにしてくれよ。思う存分攫っていってくれ。
お前に攫われた俺の欠片たちが、そっちで幸せにしているならさ、こんなに幸福な事はないから。

俺のものじゃない俺を、俺はどこかニヤニヤしながら見つめてる。まんまと盗まれてやんの。間抜け面しやがって。幸せそうだなコラ。良かったなこの野郎。

…お前を好きになって良かった。こんなに好きになるなんて思わなかった。お前じゃなかったらこんな気持ちと出会う事、きっとなかった。

なあ、分かってる?届いてる?
大好きだよ。


「サンジ」
「ウソップ」

お前が、同じタイミングで名前を呼ぶから、嗚呼もしかして、同じ事考えてたのかなって思っちまったじゃねえか。

だったらどうしよう。
泣きそうだ。



おわり





あとがき
文章を書く事自体がメチャクチャ久々だ。鈍ってる筋肉を鍛える為に書きました。


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