花火だって邪魔だ






「チェンソー様!すごい!すごくすごい!!」
「……」
カミソリの悪魔をやっと殺した。なんか気付いたら倒してたけど、血ィ流し過ぎて頭グラグラしてるし、どうやって勝ったのかあんま覚えてねえし、意識が朦朧とする。クソがァ…痛ぇ…細けぇ飛び道具いっぱい出しやがってクソ野郎がァ…。
「チェンソー様かっこいい!チェンソー様最強!」
ビームの浮かれた声をぼんやり聞き流しながら、今そういや何時かなって思った。
「…ダメだ…ビームさぁ血ィ貸して…」
悪魔の死体から血ィ掬って飲むんでもいいけど、すげぇコイツやな奴だったし痛かったしムカつくから、コイツの血を自分の体ん中に入れるのは、なんかヤダ。だったらビームからもらう方が百倍マシだ。
「チェンソー様かっこいい!天才!キャッキャッ!」
「ビーム血ィ貸してってば」
浮かれポンチに同じこともっかい言って、それでやっと俺の言ってることに気付いたビームが慌てて自分の腕をヒレで切る。そっから滴る血を飲ましてもらって、ようやく頭ん中の霧みたいなのが晴れていった。
「…ッシャァァァ〜!俺様完全復活ゥ〜ッ!!」
「完全復活!完全復活!」
「サメェ!今何時だァァッ!?」
ビームは辺りをキョロキョロ見渡し、近くのパチンコ屋、その入り口の上にあったデジタルの時刻表示版を指さして「あった!時計!」と叫んだ。表示板には「16:50」という数字。俺は小さくガッツポーズした。
「オッシャァ定時だオラァァッ!上がんぞビーム!!」
カミソリの悪魔の死体から飛び散った汚ねぇ内臓を蹴り飛ばして、今日一日の報告をするため俺は公安課まで全速力で駆けた。
「チェンソー様速い!超スピード!ゴキゲン!」
アスファルトの上に上ビレだけ覗かせて、ビームが俺の少し後ろを泳ぎながら叫ぶ。周りに気づかれないようにって配慮がもう全然ねぇが、まぁいい。そんなんはどーでも。
「へ、この後大事な約束があんだよ。遅刻できねえからな」
ビームが横に並んで、俺を嬉しそうに見上げた。ヒレだけじゃなくて顔の上半分くらいが出てるが、まあいい。それだってどーでも。
「チェンソー様遅刻しない!かっこいい!」
「お前さ、絶対邪魔すんなよ。この後は俺の5メートル以内に居んの禁止な」
「えぇ〜〜」
「えぇ〜じゃねえよ。すげェ大事な約束だっつってんだろ!」
「約束…チェンソー様、どんな約束?」
ビームの質問に、俺は鼻をフンと鳴らして答えた。
「デートだよ。デート!」

 風の速さで退勤処理をして、待ち合わせの場所までまた全力疾走する。ビームは俺の言いつけ通り5メートルくらい後ろを隠れながら泳いでいた。律儀で忠実な野郎である。女だったら良いのに。ホント、何十回も思ってるけどこいつが女の子だったらマジで良いのに。
 曲がったネクタイを直して、めくれた襟を適当に正した。上がった息を整えて、風で突っ立った前髪を撫でつけて元に戻す。商店街の入り口でもあるデカい交差点、その一角が約束の待ち合わせ場所だ。
「……」
なんか変なとこねえかな。汗臭くねえかな。片腕を上げて自分の脇の匂いを嗅ぐ。嘘だろ、やや臭くて落ち込んだ。
 しくった、待ち合わせ時間ちょっと遅くして、着替えてから来た方が良かったか。…どーだろ、でもなんか私服見られんのちょっと照れくさいかも。いつもあの娘のいる店行く時、仕事着だったし。いやでも裸見せ合ってんのに今更照れくさいもなにも…。
「デンジ君!」
相手の裸をつむじからゆっくり下の方へ、頭ん中で思い出していたら突然肩を叩かれ名前を呼ばれた。人混みの中、俺の前にかわいい顔して現れたのはもちろん、レゼだ。
 レゼは今日も糞かわいい格好をしてた。なんか横がビッて切れてる短いズボン、真っ白なシャツ、その首元から覗くいつもお決まりのチョーカーが、今日もなんか知らねぇが俺の目を釘付けにさした。
「お待たせ。いや〜今日も君は仕事着なんだね」
レゼが俺の肩をポンポン叩いて笑う。ホラ出たもう絶対この娘俺んこと確定で好きだし。逆に好きじゃねえ男にこんなことする女の子なんていねえし。だから俺は、今日はあることをすると決意していた。
 俺から、手を繋ぐ。絶対だ。絶対にレゼと手を繋ぐ。
「さっきまで働いてたからな」
「そうなんだ。お勤めご苦労様」
レゼがそう言って、なんの躊躇いもなく俺の手を取った。
「じゃ、行きますか!お腹空いてない?屋台見て回ろ!」
開始早々繋がった手に、俺は出鼻を挫かれたような気持ちんなった。…いや、まだだ。なんかのタイミングで手が離れて、もっかい繋ぐってなった時が勝負だ。そん時は俺から絶対、なにがなんでも繋いでみせる。

 レゼは屋台が連なる大通りを楽しそうに歩いた。ちなみに手は、さっきりんご飴買った時に解けてから今もそのまんま。レゼの片手は今かき氷を持ってるし、俺の両手も焼きそばと割り箸で塞がってる。なんで片手で食えるモンを買わなかったんだ。俺はバカか。
「デンジ君、かき氷は好きかい?」
「え、うん。んー、普通」
「あはは正直!じゃ、どのシロップが一番好き?」
レゼが水色の液体と氷をザクザク混ぜながら俺にそう尋ねる。俺は少し考えて、でもやっぱり正直に答えることにした。
「あ〜、悪い食ったことない俺」
焼きそばを啜りながらそう言うと、レゼはちょっと驚いた顔をして、でもその後すぐにかわいい顔して笑った。
「じゃあ、はい」
レゼはストローみたいなスプーンにかき氷を一口ぶん乗せて、俺の顔の前に持ってきた。
「キミに一口あげる。食べてみて」
「……」
レゼに言われるまま、少し猫背んなってスプーンの先へ顔を近付ける。口を開けたらそん中にレゼが、一口分のかき氷を運んでくれた。
「どう?好き?」
「……超好きィ…」
レゼが「あはは」って、また声を出して笑う。その声もその顔も、マジで超好き。口ん中、一瞬で溶けたかき氷の味をもう全然覚えてらんなくて、いやでもそんなん全然どーでもいいなと思った。
 だから、手を繋ぎたいんだって。早く焼きそば完食して両手空けねぇと。
「デンジ君たこ焼きは好き?二人で一緒に食べようよ」
「食べます」
あーもうなんか買ったらまた手ェ塞がるじゃん。いつんなったら繋ぐタイミング来るんだろ。よし決めた、たこ焼き食ったら絶対繋ぐ。俺はやり遂げる、見てろよポチタ。

 たこ焼き屋のすぐそばに石畳の階段があって、そこに座って飲み食いしてる人がたくさんいたから俺たちもそれにならうことにした。先にレゼが座って、俺はさっきも言ったけど自分が汗臭いのちょっと気になったから隙間空けて座ったら「もっと詰めてくださーい」と言われてしまった。困る。好きだ。
「たこ焼きは知ってますかデンジ君」
「知ってる。真ん中にタコ入ってんだろ」
「タコじゃないよ。イカだよ」
「は?嘘だろじゃあ何でたこ焼きって名前なんだよ」
「嘘だよ」
「嘘つき女!」
「あはは」
レゼが楽しそうにしてる。俺の隣で。口をすぼめてたこ焼きをフーフーってしてる。俺の隣で。見てたらレゼから視線を外せなくなった。こんなかわいくて俺のこと好き(確定)な娘が隣にいて、俺はどうしたら良いのか。好きだ。
「うん。うまーい」
一つを一口で食わないで、ちょっとかじった部分をレゼは俺に見せてきた。中には小さいタコの足のカケラがちゃんと入ってる。
「ほら、タコ」
「うん」
「すごいよホラ、周りこんなにトロトロ」
「……」
レゼは、なんか…エロいと思う。エロ女だ。かわいいのにエロいってダメだろ、どうなってんだ。
「デンジ君も食べなよ」
「うん、食う」
促されて、俺も一つを口の中に放り込んだ。旨い。旨いけど、ちょっと今はどーでもいい。
「今日はどんな仕事したの?」
レゼが二つ目のたこ焼きに息を吹きかけながらそう言った。
「あー…今日はカミソリの悪魔ぶっ倒してきた」
「へえ、お疲れ様。強かった?」
「全然。雑魚」
「ふふ」
レゼが笑いながら俺の肩に頭を預けてきた。ハ?なに、急に。俺汗臭いかもしんないのに。くそ、かわいい。
「デンジ君強いんだね。かっこいいなあ」
「……」
レゼの髪の匂いと、たこ焼きの匂いが混じる。心臓がガンガンうるさくなった。たこ焼きが邪魔だなって思って、顔を覗きたいなとも思って、だけどホントに心臓がうるせーから俺はなんもできなかった。
「…花火、もうすぐだね」
「へっ?」
レゼの声が小さかったからか、俺の心臓がうるさかったからか、今なんて言ったのかうまく聞き取れなかった。レゼは頭を預けたまんまで俺を見上げて、息がかかるくらいの距離、顔赤くして、笑った。
「良い場所知ってるんだ。一緒に行こう?」
「……ハイ」
喉が鳴る。こんな顔が近くていいのか。よくねえだろ。まずい。前髪の隙間から覗くレゼの目に捕まって、俺は体が固まった。
「あはは。デンジ君ほら、あーん」
レゼがたこ焼きを俺の口の前に運んで笑う。あーんとか言う。もうこんなの普通に付き合ってるじゃん。好き。
 残ってるたこ焼きが邪魔で、その後は立て続けに急いで食った。レゼが「熱くないの?」って聞いてくるから「別に」って答えたけど、ホントは口ん中ヤケドだらけだった。
 でも、それだって別にどーでもいい。全然。
 たこ焼きがやっとなくなって、二人で一緒に立ち上がる。「行こ」と笑うレゼに、もう俺は今しかないって分かってたからやっと空いた手をレゼの前に差し出した。
「うん?」
「………手ぇつなご」
「……」
レゼが俺の顔と、差し出された俺の手を何度か見比べる。
「…だめ?」
俺の言葉に、レゼは黙ったまんま首を横に振って、それから、今日一番かわいい顔して笑った。
「お願いします」
レゼの左手が、俺の右手と繋がる。……ッオラァァァやったぜポチタアアァ。見てるか、やり遂げたぜ俺ぁ。

 繋いだまんま大通りを抜けて、賑やかな場所から人気の少ない方へ俺たちは進む。林ん中を歩いていく途中、レゼが繋がれた手をモゾモゾ動かして、指の一本ずつが絡まる繋ぎ方に変えてきた。ハ?ちくしょう待てよこんなんエロすぎるだろ、どうすりゃいいんだよ。
「…この繋ぎ方にしてもいい?」
「……」
「これ、嫌い?」
「……超好き」
レゼが嬉しそうに笑って、それぞれの指にギュッと力を込める。そんで俺の手の甲を指の先で撫でてくるから、超エロいし超糞かわいいと思った。
「デンジ君と花火見るの楽しみ。ホントに良い場所なんだよ」
「……うん」
花火だってホントのところ、どーだっていいんだ、別に。
 レゼがかわいい。だって絶対にこの娘俺のこと好きだし。いちいち顔赤くしてくるし。超かわいい顔で笑ってくるし。
 でもさ実はさっきから考えてたんだけど、レゼが俺のこと好きでも好きじゃなくても、俺ん中の気持ちはもう変わらないんじゃねぇかなって思う。
 笑った顔が好き。旨そうに食ってるとこが好き。いっぱい体触ってくんのが好き。ちょっとエロいとこも好き。それから声も、喋り方も、たまにからかってくんのも、全部全部好き。
 ビームも食いモンも人混みだって、もうなんも繋がれた俺たちの手を邪魔するモンはない。ドキドキした。レゼが前を向いたまんま俺の手の甲をたくさん撫でるから、俺もレゼの手の甲を、指の先でいっぱい撫でて擦った。
 レゼ、あのさ、今はまだ振り返らないでて。多分俺変な顔してるから。今かわいい顔で微笑まれちゃったら絶対俺、レゼに全部持ってかれちゃうから。

 花火が上がったら今度は、花火にだって俺は思うんだろう。
 うるせぇ邪魔すんな今から好きって言うんだから。
 …とかさあ。

















夏祭りに一緒に出かけるデンレゼなんですが、これは私の妄想ではなく、公式です。公式からの供給です。すごない…?デンレゼ、二人で夏祭りデートしてんだわ…原作で…夢物語じゃないんですわ……。
デンレゼの何がこんなにも好きなのか考えてたんですけど、はぁー…まず二人の見た目が大好きなのと、心の動き方の順番が好きなんだなぁって思いました。
最初は嘘&有償の恋なんだけど、だんだん嘘は本物に乗っ取られていくし、有償は無償になっていくんですよ。そして二人が二人とも全然それらを自身でコントロールできてないんですよ。
だって彼らは16歳前後の少年少女だから…そう、少年少女だから……。
二人の公式エピソードの中にまだヤバいシーンがわんさかあるので、とりあえず全部拾って一つずつ書き起こしたいですね…自分で読み返したいというのもあるので……書いててメチャ萌えた、デンレゼかわいい尊い。




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