味しいおかずを食べましょう。





午後9時半。105号室、ソファの上。
俺は今この部屋に一人きりでいる。そんな必要はないのにソファの上に窮屈に足を折り曲げて、隣のスペースを空ける必要もないのに限界まで端っこに座って全身を妙に固くさせながら。

いつかは臣クンとそういうことする日が来るんだから、やっぱり事前知識は必要だしなんでも知っておいて損はないだろと思い立って、俺はスマホで動画を検索していた。
いくつかの単語をスペースで区切って検索ボタンをタップしたら、読み上げただけで死んじゃいそうな検索結果がズラッと並ぶ。
ちょっと前から…いや、だいぶ前から興味はあった。男の人同士がどうやってセックスをするのか。それは気持ちいいのか。そして果たしてそれは、俺と臣クンにも出来ることなのか。
アナルセックスって単語くらい知っている。過程も、多分だけどだいたい想像できる。じゃあそれをいつ、どうやって臣クンと実践していくのか。出来るだけつまづかないで、欲を言うなら目一杯気持ち良く。
きっと上手に成功させる為には予習が必要だろう。学校の勉強はからっきしなくせに、こんなことは積極的に学ぼうとするんだな。内心、自分にちょっと呆れた。
臣クンに気持ち良くなってほしい。そして俺も臣クンにいっぱい気持ち良くしてもらいたい。どっちも大事で同じくらい強く願ってしまう。俺はいつだって欲しがりで欲張りだ。
お尻の穴に挿れられることに対して、俺は怖い気持ちより好奇心の方が強かった。脳裏に思い描く臣クンとのセックスで、だって、いつだって俺は信じられないくらいよがってイキまくってしまうのだ。
根拠はないのに、俺は妙な確信を持っていた。臣クンとセックスするんだもん、気持ち良くない訳がない、と。
確信は、知識がないから持てるだけなのかもしれない。だから俺は早く知りたかった。自分はただ有り得ない夢を見ているだけなのか、それともそれは、あながち夢ではないことなのか。
それを見極める方法として最初に思いついたのが「ゲイ エロ動画 無料」と入力して検索する事だったんだけど、うーんと…冷静に考えるとなんか俺だいぶ頭悪い気がしてきたから、もう経緯を説明するのはやめるッス。

臣クンは明日のご飯の仕込みをしてくると言って10分くらい前にキッチンへ向かったところだ。まだ当分帰ってはこないだろう。
分かっているのに、俺は誰もいない105号室の左右前方後方を再確認した。うん、本当の本当に、この部屋には俺しかいない。
鼻息を一度だけフンッと吹いて、俺はスマホにイヤホンを差し込んだ。

正直、サムネイルだけじゃ何がなんだか分かんないし、どういう基準で選んだらいいのかもサッパリだったから、とりあえず再生時間が短いものを選んだ。一番最初に選んだやつは「8:51」。10分以内で終わるその動画を開くのも相当の勇気が必要で、俺は再生ボタンをタップするのに7秒くらい費やした。
決死の覚悟で画面中央の三角の再生マークを押す。その途端だ、画面の中の二人の男が激しいキスを始めた。
サーファー系の色黒の男の子と黒髪が綺麗な色白の男の子がパンツ一枚の格好で、ベロをいっぱい使ったキスをしながらお互いの体をまさぐっている。イヤホンからは唾液が絡まる音とか肌が擦れる音がひっきりなしに響いた。
「わーーー!」
叫んで、俺は急いで停止マークをタップした。
む、む、無理だ。こんなの観てられないし聞いていられない。心臓がバクバク鳴ってるし自分では気づかなかったけどさっきから瞬きを一度もしていなかったから両目がやたら乾いていた。
ギュッと目を瞑って数秒、恐る恐る瞼を開いてスマホの画面を観る。ヨダレが垂れて首元が濡れてる二人が、そのままの姿勢で止まっていた。
「………」
違う。これは勉強なんだ。知識を仕入れるために観ているわけであって、別に、真面目な気持ちで視聴するつもりであるし、いつかの未来の臣クンと俺の為に、いわば観なければいけないわけであるからして。
ドクドクうるさい左胸に手を当てて深呼吸する。そして俺は再び再生マークをタップした。
黒い男の子が白い男の子の下半身に手を伸ばす。男の子の体にぴったりフィットしたボクサーパンツは呆気なく脱がされて画面の外に消えてしまった。そして男の子が、色白の男の子のお尻を両手で広げて…え、え、うそ、うわ、うわああ舐め、舐めてる!
モザイク処理されているから局部は見えないけど、黒い子の舌が白い子のお尻の真ん中に伸びている。俺の耳には、舌を動かして鳴る音と舐められて喘ぐ男の子の声がダイレクトに届いた。
…あ、喘いでる。男の子もこんな風に喘ぐんだ。「あ、あ、あ」と細切れの短い喘ぎ声が、断続的に響く。
舌の動きに合わせて体を震わす男の子は、なんていうか率直に、気持ち良さそうだった。…そ、そっか…お尻舐められるのって、き、気持ちいいのかあ…。
それから男の子はお尻から口を離して、代わりに今度は指を挿し入れた。入れる直前、男の子の指がやたらヌルヌル光っていたから、画面の外で何かを塗っていたのかもしれない。
指はビックリするくらいすんなり入った。モザイクでよくわからないけど、多分二本、穴の中に入ってる。前後に動く手は、最初は伺うようにゆっくりと動いていたのに、次第にそのスピードを速める。
指を入れられている男の子の声はどんどん甲高くなった。開いた左右の足、その膝裏に自分の両腕をくぐらせてお尻を全開にしている。まるで「もっとして」とねだっているように見えた。お尻を指で責められ、男の子は子犬みたいな声で喘ぐ。
俺は唾を飲みながら2人を凝視する。…ああ本当に気持ち良さそう。
あんまりにも気持ち良さそうで、自分でも少し驚いたけれど俺は結構前から勃起していた。心臓がドキドキするのと比例して下半身にも血液がドクドク流れていく感覚がする。
…ゲイ動画を観るのなんて、これが初めてなのに。なのにどうしてこんなに興奮してしまうんだろう。

俺もそのうち、お尻でこんな風に気持ち良くなってしまうんだろうか。臣クンの指が俺の中に入ってくるところを想像して胸がギュウッと収縮した。
俺もこんな風に足を開いて、一番恥ずかしいところを丸見えにさせて、こんな、女の子みたいな声で喘ぐんだろうか。臣クンの指が自分の中で動くところを思い描いてみる。物凄くゾクゾクした。
そうして俺が喉を鳴らした時、お尻に入った指は3本に増え、その3本ともがやたら白っぽくテカっていた。
指を動かしていた男の子は少し息を乱しながらゆっくりそれを引き抜いて、今度は自分の性器をゆっくりと扱き始めた。
喘いでいた男の子を膝立ちの姿勢で見下ろしながら、見せびらかすように性器を扱く。それを見上げる男の子は何だかウットリした表情でそこに顔を近づけ、美味しそうに先っぽを口の中に入れた。
わー!フェラだ、フェラしてる!
性器を口に含んで、男の子は自分の頭を滑らかに上下させる。舐められている男の子は少し仰け反って「あー」とか「んー」とか、気持ち良さを噛みしめるように声を漏らしていた。
俺だって臣クンのちんこを、その、もしかしたらこうやってフェラするかもしんないんだから、ちゃ、ちゃんと見て勉強しておかないと。
瞬きを忘れて、名前も知らない男の子たちの行為をひたすらに見つめる。
口に含んだ男の子は上目遣いのまま顔を前後に滑らせる。たまに、先端の溝に舌を這わせたり音が鳴るまで吸い込んだりして、その度にフェラされてる男の子が「あー」と呻いた。
…こういう事したら、臣クンも気持ちいいって思ってくれるかな。俺が咥えながら見上げたら、俺を見下ろしてくれるかな。臣クンも呻くように声を出してくれるかな。
臣クンが気持ち良さに顔をしかめたり声を漏らすところを想像する。…ああ、堪んないや。どうしよう見たい、見たくて堪らない。気持ち良くて息が上がってしまう臣クンを思い描いて、俺は思わず喉を鳴らした。

男の子たちは画面の中、今度はまた舌を絡ませながらキスをした。そのままカメラが下へ下へと移動する。ちんこの先っぽとお尻の穴も、まるで鳥がくちばしを寄せ合うように「チュ、チュ」と音を立てながらキスをしていた。
…いよいよ、いよいよだ。これから中に挿れるのだ。唾を飲み込んでスマホの画面に齧り付く。どんな風に腰を振ってどんな風に喘ぐのか、俺はドキドキしながらそれを想像した。
けれど姿勢をググッと前のめりにしたところで、動画は唐突に終わってしまったのだった。
「もう一度頭から」の、矢印がグルリと一周しているマークが真ん中に表示され、俺は思わず「えっ!」と不服の声を漏らした。
なんでだよ!だってここからがいいとこ…いや違くて勉強しなきゃいけない大事なところだったのに!
俺は憤慨しながら動画一覧画面に戻った。こうなったらちゃんと挿れてる動画も観なくちゃ気が済まない。いや違くて!だから、勉強したいから!!
良質な動画(いや違うだからそうじゃなくて、つまり「勉強するにあたって」という意味だ)を探し求めて、俺はサムネイル一覧を吟味する。

そうやって躍起になってスクロールしている時だったのだ、自分の上にゆっくりと影が落ちてきたのは。
何だろうと思い上を見てみて、俺の全身はその瞬間に石になった。だって臣クンが、ソファに座ってスマホを凝視している俺のことを上から覗き込んでいたからだ。

「…オッ!!!!!!!!!」
俺のしこたまデカイ一声に、臣クンが少しだけ目を見開く。けれどまた次の瞬間には俺と、そして俺のスマホの画面をじっと見つめ直した。
俺は耳からイヤホンを引っこ抜き、スマホを裏向きにして膝の上に素早く伏せた。
な、ななななななんで!!なんで臣クンがもう戻ってきてるんだ!!そして何で俺は!!こんな近くに立たれるまで気づかなかったんだ!!!

「…声、何回かかけたんだが…ごめん、夢中だったみたいだな」
「……っ〜…」
言い訳が一つも思い浮かばなくて、俺の口は無音でアワアワ動くだけだ。どうしようどうしよう、よりによってゲイ動画観てるところを見られてしまった。恥ずかしい。普通に女の子のエロ動画観てるのがバレるより恥ずかしい。
「…監督が、どうしても作ってみたいカレーのレシピを見つけたって興奮しててな。キッチンが空いてなかったんだ」
臣クンがすぐに戻ってきた理由を知り、俺は理不尽にも程があるけど監督先生を少し恨んだ。

「……なあ太一」
「ち、ち、違う!勉強してたの!!」
「…勉強?」
尋ね返す臣クンに俺は今世紀最大の力を込めて首を縦に振った。
「おっ、臣クンといつかする時の為にと思って!!予習してたんス!!」
「……へえ」
臣クンはそのまま俺の隣に腰を下ろし、にじり寄るようにして距離を詰めてきた。
臣クンが、膝の上に乗せたスマホと一緒に俺の膝を撫でる。
無言があんまりにも堪えられなくて恐る恐る臣クンの方を見たら、臣クンはやけに真剣な表情で「太一」と、俺の名前をゆっくり呼んだ。
「…は、はい」
嗚呼、もうだめだ返事しちゃった。今の一瞬で俺は捕らえられてしまったんだと分かった。もう誤魔化しやシラは、何の意味も成さないだろう。
「どんな内容の動画だったんだ?」
本当は内容なんてさほど興味ないくせに、わざわざ聞いて俺に言わせようとする。臣クンは意地悪だ。
…でも俺、臣クンのそういうとこ好き。追い詰められるとゾクゾクする。これを言ったらきっと臣クンは引いちゃうだろうから、言わないけどさ。
「……や、やらしいやつ」
目を伏せてボソリと答えると今度は「どんな風に?」と返ってくる。臣クンがそう尋ねてくることを半分くらい分かっていた俺は、まるで誘導尋問みたいなこのひと時に緊張と、それから少しの興奮を感じていた。
「……お尻に、指入れたりとか…フェラとか…」
「…へえ、それで?太一は勉強になったか?」
「…」
この空気に耐えられなくなってしまって、臣クンの顔をもう一度見る。すると目を細めながら臣クンは俺をじっと見つめていた。
俺は、この目をする臣クンを知ってる。どうやって話したら、どうやって展開させたら俺が一番興奮するかなって、じっくり考えてるんだ。俺のことを見つめながら俺のことを考えている。
やらしくて湿っぽくて、やたら熱くて…俺、臣クンのこういう時の目が堪らなく好き。…見つめられるだけでちんこが硬くなるなんて、俺、どうかしてるのかなぁ。

「…せっかくだから一緒に勉強しようか、太一」
臣クンがそう言って、膝の上のスマホを表側にひっくり返した。俺は首を横に振ることもなく、ただ黙って臣クンの言葉を聞く。
臣クンが手を伸ばしてイヤホンコードを手繰り寄せ「R」を自分の右耳に入れる。それから俺に「L」を渡して「ほら、太一も」と言った。

まさかイヤホン半分こにしてエロ動画を一緒に観ることになるなんて。
ずっと昔に読んだ雑誌に「ティーンが恋人とやってみたいことランキング」という特集があって、それの二位が「イヤホン半分こ」だったなあと思い出した。あの雑誌の読者の中にはきっと、それがエロ動画を観る為と考えた人など一人もいないだろう。勿論俺だって。

ドキドキしながらサムネイル一覧画面を観る。臣クンが無言でゆっくりスクロールする。
卑猥な言葉と男の人が絡まりあう静止画の数々に、俺の体温は沸騰しそうだった。
「…勉強なのに、いけないな太一は」
臣クンはそう言って、スマホの画面から一瞬だけ視線を動かし俺の股間に目をやった。
元気にテントを張る下半身を見られて俺は死ぬほど恥ずかしくなった。俺が勃っていることに多分だいぶ前から気付いていたんだろう。…どこかに穴を掘って埋まりたい。割と本気で。
「太一が好きなのは…どんなやつだ?こういうやつとか?」
臣クンが俺に聞きながらスマホをスクロールしていく。だけどそう言われても俺には、好きとか好きじゃないとか、そんなの全然分からない。
どれを観たって結局食い入るように観てしまうだろうし、内容がどうであろうと、頭の中で自分と臣クンに置き換えてしまうのだ。
「…それとも、出てる男のタイプで選んだ方がいいか。…こいつとか?」
臣クンが口の端を少しだけ持ち上げて言った。
「こいつとかは?どうだ?」
「あ、あの、お、臣クン」
「ん?」
「ひ、人で選ぶのはあんま…ごめん、意味ないかもッス」
「…うん?どうして?」
「…」
こ、答えたくねぇ〜〜。だけど臣クンは瞳で俺を捕まえて、決して離してはくれなかった。
…いやだな、恥ずかしいな。だけどもう臣クンの前では、誤魔化しは一切効かない。
「…どんな人が出てても、お、臣クンのこと、想像しながら観ちゃうから。…ご、ごめん」
蚊が鳴くような声で伝える。恥ずかしい。恥ずかしくて俺はもう若干涙目だ。
だってこんなの、さっきまで臣クンのこと想像しながらちんこ勃ててましたって白状したようなもんだ。
ごめんね臣クン、俺は臣クンが思ってるよりスケベでやらしい奴なんだよ。謝るから、どうか幻滅しないで欲しい。

少しの沈黙が続いて、あまりの居たたまれなさに「ごめんなさい」と声に出して謝ってしまおうかと思った時だった。臣クンがそっと言葉をこぼした。
「…そうか、俺のこと想像してくれてたのか…」
反芻するようにして呟いた後、続けて「なんだ…」と漏らす。
それから臣クンは気を取り直したようにウンと頷いて、俺をしっかりと見つめた。恥ずかしかったけれど、俺もそらさずに見つめ返す。
「それじゃあ、太一。俺も太一のこと想像しながら観るよ。…一緒に勉強しよう」
「へ、う、うん」
よく分からないまま縦に首を振ったら、臣クンは優しい顔で笑って俺の頭を撫でた。
「…安心した」
「う、うん?」
「太一が、俺以外の男で興奮してるんだなあと思ってたから。…ごめんな、本当はちょっと嫉妬したんだ、俺」
臣クンが照れたように笑って胸の内を明かす。
…ああ、もう。臣クンがそうやって本当の気持ちを教えてくれる度この胸に沸き起こる感情を、臣クンは知らないでしょう?可愛くて愛しくて、大好きで、本当に本当に堪らなくなるんだよ。
画面の向こうの知らない男の人にまでヤキモチを妬いてしまう臣クンが愛しい。世界で一番可愛い。大好き。ねえお願い、ずっと俺のことだけ好きでいて。
臣クンが俺の頭を抱き寄せながら再び画面をスクロールする。
俺は優しく髪の毛の上を滑る臣クンの手つきを感じながら、ただひたすら臣クンへの愛しさで胸を充満させていた。…こんな気持ちのまま一緒に観たら、どうしよう俺、たぶん三回擦ったくらいでイッちゃうよ。
「お、お、臣クン、あの」
「うん?」
「べ、勉強できないかも俺」
おずおずと答えると、臣クンはおかしそうに笑って「いいよ、勿論」と言った。
「じゃあ勉強3割、好奇心7割でいこう」
「う、うん…あ、待って勉強2割にして」
「はは、わかった。じゃあ2割な」
「や、待って!やっぱ1!1にしといて!」
「あははわかった、じゃあもういっそ0にするか?」
「いやゼ、0はなんか…建前だけでも1にしておきたいッス…」

画面には、ビックリするくらい下品な言葉が並んでるのに。
それを眺めている筈の臣クンがやたら優しい声で笑うものだから、そのチグハグさがなんだかおかしくて、俺も一緒に笑った。


「…じゃあ、これにしよう」
「う、うん」
数分後、二人で選んだ動画は15分程度の長さのものだった。
臣クンの親指が画面の真ん中の再生マークをタップする。ガッシリとした体つきの男の人と、学生服を半分くらい脱がされた状態の男の子、という二人が出てくる動画だった。

学校の教室のような場所で、男の人が男の子の乳首を爪で引っかきながらキスしている。
イヤホンをつけた片側の耳から、唇が重なる音や男の子の小さな喘ぎ声が聞こえてきて、俺は耐えられなくて両手で顔を覆った。
「…太一ほら、観ないと」
「う、うん」
指の隙間からスマホの画面を覗く。
男の人がいったん唇を離して、それから今度は男の子のシャツを捲り上げて乳首を舐めた。男の子はそれがよっぽど気持ち良かったのか「あっ」と今までより大きな声で喘いだ。
「…太一も」
「へっ、ななな、なにっ」
臣クンが動画を観たまま唐突に俺の名前を呼んだので、俺は驚きながら慌てて返事をした。
「いや…太一も乳首、感じるのかなあと思って」
臣クンがチラリと俺の方を見る。甘い匂いが漂ってきそうな垂れ目に見つめられ、俺はクラリとした。
か、感じるかどうかなんて。そんなの、臣クンが触ったら気持ち良くなっちゃうに決まってるじゃないッスか。
「…い、いじったことない」
「…そっか」
今の答え方が正しかったのかどうか分からない。そのまま臣クンは視線を画面に戻してしまった。俺もドキドキしながら、またスマホ画面を注視する。
男の人が今度は男の子の黒いスラックスを脱がしてパンツ越しにお尻を揉んだ。乳首は変わらず舐めたり噛んだりしたままだ。
男の子は気持ち良さに体をビクビクさせながら「あ、あ」と断続的に喘ぎ続ける。
イヤホンを通って耳に届く赤の他人の喘ぎ声に、俺はまた興奮していた。同じ音声を聞いている臣クンはどうなんだろう。今、興奮しているんだろうか。
男の人はパンツを片手で脱がせてからお尻の穴を指でトントンと刺激した。男の子が自分から足を広げてその先をねだる。
男の人は乳首から口を離して一旦起き上がると、画面の外側から何かのチューブを手にとって蓋を開けた。これは多分ローションだ。
男の子が足を開いたまま息を詰める。チューブの中から出てくる透明のジェルをお尻にかけられて、男の子はその瞬間にギュッと目を瞑った。
「…こういうの、買わないとな」
「えっ、な、なにっ?」
臣クンがポソリと呟く。俺が力んで尋ね返すと、臣クンは画面の中、男の人が手にしているチューブを指差して答えた。
「俺たちもする時は、こういうの買わなくちゃいけないなあと思って」
「へあ、う、うん、そーだね」
臣クンは至って冷静に見えた。動画を観ていてもさほど、興奮していないのかもしれない。
…俺は駄目だ。てんで駄目だ。さっきからこっちの男の人に臣クンを重ねて、こっちの男の子に自分に重ねて観てしまっている。
ついでに言うなら学校でもしこんなことされちゃったらどうしようメチャクチャ興奮しちゃうかもしんないなんて、みっともなくて恥ずかしいことまで考えてしまっている。ホントにマジで駄目駄目だ。

男の人は中指の先をお尻の入り口にくっつけて、ゆっくりと回すようにして触った。男の子が体をビクリと揺らす。
俺はこの時大変なことに気づいてしまった。この動画はモザイク処理がされていないのだ。
男の子のお尻の穴、そのヒダの部分までがくっきりと映されヒクヒクと収縮している様子がよく分かる。まるで海の生き物か何かみたいだと思った。
俺もこうやって、いつか臣クンにまじまじと見つめられてしまうのだろう。恥ずかしいけれど避けては通れない道なのだと自身に言い聞かせる。
男の人の中指がゆっくりと穴の中に入っていって、そのまま前後に出し入れされる。男の子は指の動きに合わせて「あ、あ、あ」と甘ったるい声を響かせた。

「…気持ち良さそうだな」
臣クンの呟きに数テンポ遅れて「そ、そだね」と返事をすると、臣クンはじぃっと画面を見つめて真剣な顔をした。
それから、男の人の中指の動きを真似るようにして、自分の中指を空中で同じように動かしてみせたのだった。
「………」
俺はそれを凝視した。臣クンの中指から目が離せなくなった。
何もない空中で前後に動いているだけの臣クンの指が、今俺にとってはこの世界で一番いやらしいものに見えた。
臣クンの長くて綺麗な指が、俺の中を探る。擦って、いじって、何度も中を出し入れされる。
それは俺にとって未知の感覚なのに、どうしてなんだろう。やっぱり想像すると気持ち良さそうで仕方ない。…擦られたい。いっぱいいじって欲しい。

臣クンが純粋に勉強をしている横で、俺はもう完全にそれを放棄していた。
臣クンの中指に見惚れながら勃起した自分の性器に手が伸びる。イヤホンから聞こえる男の子の喘ぎ声をBGMにして、俺は臣クンをオカズにしようとしてるのだ。
俺が服越しにちんこに手を伸ばしかけたのと同じタイミングで、動画の男の人は指を引き抜き自分の性器を男の子のお尻にあてがった。
男の子が小さな声で「だめ、だめ」と繰り返す。けれど足を全開に開いて結合する場所を見つめる男の子の顔には「早く、早く」と書いてあった。
おちんちんが、お尻の中に入る。男の子が一際大きな声で「あー」と言った。俺は、俺はもう、画面に釘付けだった。

男の人が腰を揺らしながら男の子の乳首を触る。男の子はひっきりなしに喘ぎ続けてそれに応えた。
男の人の腰の動きは、そんなに速くも乱暴そうでもない。けれど男の子はビックリするくらい気持ち良さそうにずっと喘いでいる。「あ、あ」とひたすら繰り返すだけの声は途中「だめだめだめ」に変わって、それと同時に男の子の身体が跳ねて大きく仰け反った。え、え、なに。今の何。
男の子の性器からは何も出ていない。でも明らかに今の瞬間は「イッた」状態に見えた。な、なに。なんでなんで。なにが起こったんだ。

「…ドライオーガズムかな」
臣クンが何か聞いたことない単語を突然隣で口走る。
「え、ド、ドライオーズ…?」
「ドライオーガズム。射精しなくてもイけるらしいぞ。男も」
「へ、へぇ…そーなんだ…」
し、ししし知らなかった!なにそれ全然知らなかった!!
射精しなくてもイけるって一体全体どういうことなんだろう。射精感でイく訳じゃないってことは、じゃあ体のどこの部分が「イッた」って感じるんだろう。だめだ想像しても全く分からない。
「…ほとんどの男が、ちゃんと練習すればできるらしいな」
臣クンが俺の顔を見ながらそう言った。…ちゃんと練習すれば、つまりは俺も。
「…お、女の子みたいだね…」
率直な感想を述べると臣クンは「そうだな」と頷いて、それからもっと顔を俺に近付けた。
「…太一にも、気持ち良くなってもらえるように頑張るよ、俺」
「う、う、うん」
息が鼻先にかかるくらいの至近距離で、俺たちは見つめ合う。イヤホンから聞こえる知らない人たちのセックスの音が、一瞬で遠い世界のものになった。

「…メスイキ、って言うんだ。こういうの」
「メ、メメ、メスイキ」
さっき動画一覧画面で何度か見かけた言葉。
たぶん俺が予想するに「女の子(メス)みたいにイくこと」を総称してそう言うんだろうと思うんだけど、何て言うか、字面も語感もメチャクチャ下品で悪趣味な感じがする単語だ。
…それが、臣クンの口から放たれる。なんだかそれはとんでもない事のような気がした。間違ってもきっと、カンパニーのみんなは臣クンがこんな言葉を吐く瞬間を想像もできないだろう。
「太一も、いつかしような。メスイキ」
「……」
臣クンが顔を傾けて俺の返答を待つ。
俺は口から心臓が飛び出そうだった。もうダメ、こんなのダメ。臣クンの一言一句で、体に電気が走ってしまう。
「…は、はい」
俺が返事をすると、臣クンは迷う事なく唇を繋げた。
スマホを俺と臣クンの体の間に置いて、俺たちはイヤホンを半分こにしたまま舌を絡ませる。

「あ、ぁ」
男の子の喘ぎ声のせいで気分が高まっているのか、俺はキスだけで声が沢山漏れた。
自分でもなんとなくわかる。俺の声、いつもより甘ったるくていやらしい。
臣クンは舌で俺の口の中をいじくり倒した後、俺の舌を引きずり出して何度も柔らかく噛んだ。
「あ、あっ、あ」
イヤホンから聞こえる男の子の声と自分の声が重なる。男の子はまた「いやいや、だめだめだめ」と登り詰めるように喘いでいる。きっとまた「メスイキ」ってやつをしたんだろう。もう画面を観ていないから分からない。だけど声だけで、気持ち良さは充分伝わってくる。

ねえ臣クン、俺も臣クンと早くこういう事したい。いっぱい突かれて、いっぱいイキたいよ。原理や仕組みなんて知らない。だけど俺の体は絶対に、臣クンにメチャクチャにされるのを待っている。
「太一好きだよ」
臣クンが息継ぎの合間に言って、俺の股間に手を伸ばす。それを待ち侘びていた俺は、自分でベルトとチャックを外して臣クンの手を迎え入れた。
「あ、ぁ、臣クン、好き、あ」
俺のパンツは先走りで少しだけ湿っていた。もう、恥ずかしさより興奮が勝ってしまって、俺の腰は先を急くように揺れてしまう。臣クンもそれに興奮してくれたのか、パンツの中から俺の性器を出す途中「やらしい、好きだよ」と熱のこもった声で囁いた。

舌を繋げたまま、俺も手を伸ばして臣クンのズボンを引き下ろす。臣クンも勿論ガチガチに勃っていて、俺はキスをしたまま臣クンの股間へ目をやった。
下着の上から臣クンの性器を触る。大きくて硬いその性器を握って一度扱いてみると、臣クンが涎で濡れた唇から「ん」という声を漏らした。
いつか、今握っているこれが、俺の中に入るんだ。俺、これでメスイキさせられちゃうんだ。
そのメカニズムは分からないくせに気持ち良さだけはやけにリアルに想像できて、俺は堪らず唾を飲む。

臣クン好き、大好き。何回でも一緒に気持ち良くなりたい。いっぱいイキたい、いっぱいイッてほしい。
臣クンが俺の中でイク瞬間を、その光景を、俺は絶対に誰にもあげはしないのだ。それを脳裏に焼き付けて、一生独り占めするんだから。

臣クンの下着をずり下げた瞬間に俺の体は押し倒され、まるで磁石が引っ付くみたいに臣クンと俺の股間がくっ付いた。
臣クンが俺の上に覆い被さって股間を揺らす。お互いのおちんちんがくっ付いて、濡れて、擦れて、意味が分からないくらい興奮した。
「あ、太一、握って」
「ん、ん、あっ、うん」
臣クンが腰を振りながら言う。俺はその言葉の通り二人分のおちんちんを両手で包み、ゆっくりと扱いてみた。
いつの間にかイヤホンからは何の音もしなくなっていた。動画はいつ終わっていたんだろう。

「あ、気持ちいい、あ、あ、臣クン」
「うん、俺も気持ちいいよ太一」
「だめ、あっ、あ、やだ、やだっ…イク、イク俺」
この気持ち良さの延長線上に、挿入があってセックスがあって、メスイキってやつがあるのかな。…ああ、大丈夫かな。こうしているだけでこんなに気持ちいいのに、俺、おかしくなっちゃうんじゃないかな。
ねえ臣クン、やっぱりちょっとだけ怖いや。もしも俺が、気持ち良すぎておかしくなっちゃったら。…その時はごめんね。

「あっ、だめ、だめだめだめ、イクっ、イッちゃう臣クンっ」
臣クンの腰の動きに翻弄され、俺は手を動かせなくなってしまっていた。もうだめ、だめ、ホントにイッちゃう。
縋るように臣クンの服、胸の辺りを掴んでその体に捕まると、臣クンがそれを合図にして俺のおちんちんを握った。
「イッて太一」
臣クンの大きな手が、長い指が俺を掴んで追い立てる。背中に鳥肌が立って、俺は気持ち良さにそのまま飲まれた。
「あ、あっ!だめ、だめだめ、あっ、あー…っ…」
腰がビクビク揺れて、俺の精液が臣クンの手を汚す。汚してごめんなさいという気持ちより、臣クンの手気持ちいい、大好き、という気持ちが大きくなって、俺はその光景を半ば見惚れながら視界にぼんやり納めていた。
俺の精子まみれの手で今度は自分の性器を包み、臣クンは俺に覆いかぶさったままそれを扱いた。
「ん…太一」
臣クンが俺の上で、気持ち良さそうな顔をして、声を漏らす。ああ、臣クンのその顔とその声、俺ホントに大好き。たまんない。
「あ、イク、出るよ太一、あ」
臣クンが体を震わせて目を瞑る。それから数秒後、俺のお腹に生暖かいものがかけられた。臣クンの精液だ。
脳が熱に浮かされたまま、俺は臣クンの精液にそっと手を伸ばす。ヌルヌルしてあったかくて、臣クンが気持ちいいって思ってくれた、これはその証拠。
嬉しくて、暫く指先に掬ったりしてその感触を確かめていたら、臣クンの優しいキスが降りてきた。

「…気持ち良かった」
唇が離れ、臣クンが一言そう零す。
「…うん、俺も」
もう一度キスをしたら今度は臣クンがちょっと照れたように笑うから、俺もその顔が可愛くて一緒に笑った。
「やっぱり、全然勉強にならなかったな」
「いや、臣クンは2割くらいちゃんと勉強してたよ。…俺はやっぱ0だったけど」
「あはは。俺も0だったよ。途中からイヤホンが邪魔で仕方なかった」
臣クンの笑った顔が優しくて、イッた後の脱力感ごとそっと包み込んでくれる。
「…ねえ臣クン」
「うん?」
「…また一緒に勉強しよ。…今日教えてくれたこと以外のことも、また教えて欲しいッス」
俺のお願いに、臣クンは少し驚いているようだった。目を見開いて、その後ため息と共に「あー…」と声を漏らす。
「…わかった。それじゃあ次はもうちょっと実践も取り入れてみるか」
臣クンの意味深な言葉に「なになになに、なにするの!」と、少し早口になりながら俺が尋ねると、臣クンは何がツボに入ったのかおかしそうに笑うのだった。
「あはは、太一は本当に熱心だなぁ」
それからおでこをコツンとくっつけて「やらしい」と俺に囁いた。
「!…や、やらしくもなるよ!だって臣クンがいっつも、なんか、こう…やらしいからいけないんじゃん!」
「えぇ?そうか?…んー…」
言われてもいまいちピンときてない様子で、臣クンは顎に手を当て斜め上を見る。
「…太一はやらしいの、嫌いか?」
「き、嫌いとかじゃなくって…」
「そうか。なら良かった」
にっこり笑う臣クンに悪気がないことは分かってる。分かってるけど、だからさ、もう、俺が言いたいのはそういうことじゃなくって!
心の中で臣クンの天然ぶりに悪態をつくが、うまく言葉にならない。代わりに臣クンをジトリと睨んでみせたら、今度は「ん?」と優しく微笑まれてしまった。

くそ〜…。だから最初に言ったんだよ、臣クンが思ってるより俺はスケベでやらしい奴なんだって。
……いや、まあ言ってはないけどさぁ………。








あとがき

スケベでちょっと下品な太一くんを書きたくて書いてみました。(下品が苦手な方は嫌な箇所などあるかもしれません。申し訳ありません>_<)
太一くんは、臣クンに挿れられたくて仕方ないんだけど、マインドとしては割と攻めと言うか、性に対して積極的だし好奇心も旺盛で、あんまり受け受けしくないといいなぁ萌えるなぁと思っています。体は臣太なんだけど、心は臣太臣と言うか!限りなくリバに近い感じが好きです。
臣クンは果たして、過去に男の人と致したことがあるのかな…どうだろ…。臣クンの過去を今まで何回か考えたりしてきたのですが「あはは」と笑ってはぐらかされる感じで、一向に上手に想像できません。もしや後ろが開発済みなのでは…!?なんて想像もしてしまいます。臣クンは本当に未知。
二人には早く本番までいってほしいものです。
それを書く時は、最高にえっちに、リアルに、いやらしい二人を書けたらいいなぁと思っています。
密かに燃えています笑

書いていて一番面白かったのは、空中で中指を動かす臣クンのシーンでした。天然ぶりを上手に表現できたような気がします笑



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