そばにいるね

審神者になる前の話だ。
祖父さんに審神者になって欲しいと政府から役人が来た。
祖父さんも年だったし、健康状態に不安が残るからと断ったがその席で祖父さんは私を推薦した。
おいおいおいと思ったがまぁ仕方ない。
役人はこの場では返事しかねる…と帰っていったが、私に審神者就任の要請が来るのも時間の問題だろう。
祖父さんは、刀を見てこいと言った。
拝んで来いだと。
そこで私の刀剣見学旅行が決まった。
へし切長谷部に日本号、江雪左文字や宗三左文字…骨喰藤四郎などなど。
そして関東にも来た。
トーハクにも足を運び収蔵されている刀剣の数と質に驚く。
さすがに環境がいい、大事にされているのがよくわかる。
いや他でも大事にされてるんだろうけど、設備の整い方が違う。
さすが天下のトーハク。
ここでもさまざまな刀を見た。
そして、梅が見頃を迎えた時期。
私は満を持して水戸に行った。
偕楽園で梅を見たいというのもあったから。
ちょうど風の強い日で、あとでその日は春一番が吹いた日だったとニュースで見た。
通りで暖かかったわけだ。
ひとしきり梅を愛でてから目的地に向かう。
そこには燭台切光忠と児手柏が展示してある。
それが目当てだ。
刀以外にもクラシックカーが展示してあったりして、私はそれの写真も撮ったりしていた。
そして児手柏はなんともなかったが、光忠の前に立った時…私は悪寒が走った。
刀などを見る時はたまにあるのだ、その刀に反応して悪寒が走ると言うことは。
事実へし切長谷部は美しさの中にピリピリとした、口で説明しづらいものがあった。
緊張感、と言うのだろうか?
物には魂が宿る。
霊感が強いとその魂の強さに圧倒されてしまうのだろう…と、私は考えている。
私は気分が悪くなって、座れる場所を求めてその場を離れた。
悪寒は治まる気配がない。
困ったな…そう思っていたら、暖かい手が背中を擦ってくれた。
少しずつ身体が軽くなる気がした。
この手は十中八九人間ではないとわかっていたが、それどころではなかった。
次第に体調も戻り、心の中で礼を言ってまた燭台切光忠を見に行った。
今度は悪寒も何もなく見学できた。
隣に飾られた写しも美しかった。
だが、それ以上に…。
本歌である焼けた姿の燭台切光忠の美しさに圧倒された。
黒い刀身からはかつての刃紋は見受けられない。
だが光沢のない黒く煤けた刀身のなんと美しいことか。
焼けて熔けて付着したと言うハバキがアクセントになりなんとも美しいのだ。
見れてよかった、そう思って私はそこをあとにする。
翌日は御手杵を見に行きデカさにビビったり。
実家に戻る頃には大倶利伽羅の展示も始まるだろう。
それを楽しみに私は刀剣見学の旅を続けた。

[ 59/79 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -