願いを込めて

大釜に粥を仕込む。
磨いだ米にひたひたの水を入れてふつふつ煮立たせて。
それもこれも翌日が1月7日だからだ。
1月7日と言えば七草粥。
無病息災を願い、饗される粥を皆で食べる。
付喪神に病はないかもしれないが、今は戦時下。
いつ誰がどうなるかわからない。
だから、一人も欠けずに戦い抜ければいい。
私はそういう願いを込めて粥を仕込んでいた。
隣では彼も釜の様子を見てついてくれている。
「まだまだかかりそうだね」
そういう彼の問いに上の空で返す。
「まぁねぇ…」
「朝にお粥はいいね、これなら君も食べてくれそうだ」
朝は特に私の食が細いことを心配してくれているのだろう。
彼の気遣いが嬉しい。
「あぁ、まぁね…」
「どうしたの?元気ない?」
「…そんなことはないけど」
「聞かせて?」
「七草粥と言うのは無病息災を願って食べられるものだからさ…」
「うん」
「…誰一人欠けることなく戦い抜ければいいなって」
「そうだね」
「この日常もいつか壊れる日が来るのかなって考えたら…うん…」
そう言うと彼は私の頭を撫でる。
「大丈夫だよ、君と僕がいれば絶対大丈夫」
いつもなら根拠のないことを言うなって突っ返すところだけど…。
わかってしまったんだ。
それは彼の悲願でもあるのだと。
彼は戦友を失う辛さを味わいたくはないのだと。
何より私が悲しむところを見たくないと願っているのだ。
「ありがとう」
「大丈夫、絶対大丈夫だから」
それは自分に言い聞かせるためにも聞こえた。
「おんやぁ?なぁにしてるの?お二人さん!」
入り口を見ると次郎がケタケタとご機嫌な様子で声をかけてきた。
大方酒のアテでも探しに来たのだろう。
「明日の仕込みだよ、それより飲んでるんだろう?何か作ろうか?」
「いいのかい?」
「光忠もいるし…焦げたり吹き零れないよう見ておくだけだから」
「そんじゃ、お言葉に甘えようかな!」
「その代わり一杯いただくよ?」
「おっ?!いいねいいねぇ!大歓迎だよ!」
次郎と飲むと暗い気持ちも晴れるだろう。
アテを作りながら一杯また一杯と杯を重ねる。
酔っていても存外手元はしっかりしているものだ。
彼はヒヤヒヤしながら見ていたが。
簡単に大根の千切りの酒盗あえを最初に出す。
それから角切りベーコンを焼いてマスタードを添えて。
酒が進むと言うものだ。
「あんまり飲みすぎちゃダメだよ二人とも」
「だぁいじょぶだぁいじょぶ!次郎さんは酔ってるくらいがちょうどいいの!」
「大丈夫だ、自分の限界はわかってる!それより光忠も飲め!」
「僕?!釜を見なきゃ」
「私も見てるから…光忠も飲め」
「そういうなら…」
そう言って3人で厨房で飲んだくれていた。
そこに陸奥守もやって来て、更にどんちゃんすることになった。
一人、また一人と…酒盛りに加わる人数が増えた。
そうだ、こうして皆で酒が飲めると言うのはとても幸せなことだ。
翌朝。
飲んだくれた次の朝に、七草粥の優しい味がスーっと効いて…これは…ありがたい。
何より皆の顔を見ながら賑やかに食べるのは、本当に幸せなことだ。
願わくば誰一人欠けることなく、皆が無事戦い抜けますように…。

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