愛おしい

戦場で見せるあの凛とした声と表情も。
本丸で見せる和やかな声も表情も。
僕と二人だけの時に見せる甘えたような声も表情も。
褥で見せる艶やかな声も表情も。
すべてが愛おしいと思った。
今僕に向けられているのは、二人きりの時の甘えたような表情。
僕に身体を擦り寄せて甘えてくる彼女は、とびきり愛おしくてかわいい。
「ねぇ」
「何?」
「もっともっとくっつきたいな」
「くっついてるじゃない」
「もっとだよ」
そう、もっと。
もっと君を近くで感じたい。
そう思うのはワガママかなぁ?
畳に押し倒して、僕は隣に寝転ぶ。
彼女を抱き寄せて、額に軽く口付けた。
「光忠…」
「なぁに?」
「私を抱きたいの?」
「それはあとでもできるから…今は君を抱き締めていたいな」
華奢な身体を抱き締める。
時々折れてしまうんじゃないかって思うけど…。
でも君はそれほど弱くはないと知っているよ、強い子だものね。
「僕は君に甘えたいのかな…それとも君に甘えてほしいのかな…わからないや」
彼女は僕の背をぽんぽんと、あやすように叩く。
僕はそれが嬉しくて、首根っこに顔を埋める。
「幸せだね」
「そうね」
「君はどうやって僕に甘えたい?」
そう尋ねたら、黙って僕の胸に顔を埋めしがみつくように抱きついてきた。
「本当はね」
「うん」
「服着てない方がいいなって」
「ふふふ、うん」
「光忠に抱かれてるの、温かくて好き」
「僕も君を抱くのは好きだよ」
温かくて柔らかくてすべすべしてて、ずっと撫でていたい。
僕が触れるだけ、君に愛おしいのだと伝わればいいのに。
君も僕に焦がれているのかもしれない。
でも…僕がどれだけ君に焦がれているか、君は知らないんだ。
許されるなら僕が君を独占していたい。
許されるなら誰の目にも触れさせず、僕の腕の中で…。
許されるなら君を隠してしまいたい。
でも。
きっとそれをしたら君は泣いてしまうから。
君を悲しませることはしたくないから。
だから、一週間…いや一日だけでも…。
君の自由が欲しいな。
一日だけ僕の籠の鳥になって欲しい。
僕なしでは生きられない籠の鳥。
これを告げたら君は幻滅してしまうかな?
「ねぇ主」
「何?」
「君の声が聞きたいな」
「声が聞きたいと言われても」
「何か話してよ」
「この前と逆ね…そうだな…何がいいかな…」
主が小さい頃の話をしてくれた。
男物の着物を着せられて走り回っていたこと。
遊ぶのはもっぱら、家の周りかお父さんが宮司をしてる神社だったこと。
お祖父さんの知り合いが来ると、おやつやおこずかいがもらえて嬉しかったこと。
そんなことをつらつらと。
「初恋はいつだったの?」
「わからないな…告白されて…付き合って…でもすぐ振られた、好きだったかどうかもわからない」
「僕は?」
「え…好き…」
「僕の前にこんな気持ちになったことある?」
少し、考え込んでポツリと。
「ないかも…」
「じゃあ僕ってことだね」
「そうなのかなぁ…」
「じゃあ初めて抱かれたのは?」
彼女は戸惑ったような顔をする。
言うべきか、言わざるべきか。
逡巡しているように見える。
「軽蔑されそうだ」
「どうして?」
「中学校に上がった頃…祖父さんが仕事でいない時にどこからか入り込んだ色情霊がいて…」
「それで?」
「そいつらにやられた」
「…今憑いてるならぶった切ってやりたいな」
「もちろん仕事から帰った祖父さんがブチキレて滅したよ」
「それで何で軽蔑されそうだになるの?君は被害者じゃないか」
「…まぁいろいろあるんだ」
「そう」
「怒った?」
「まぁプライベートなこと聞いた僕も悪いしね」
それにしても…そんなやつらに彼女の初めてを持ってかれてたなんて…。
僕はまぎれもなく嫉妬してる。
そんな僕の様子を察したのか、彼女は僕の頬に手を添えた。
「今も、これからも…私は光忠のものだから」
「うん」
「だから言いたくなかったの、光忠が怒ると思ったから」
「…カッコ悪いな…仕方ないって思っててもそんなやつらに君の初めてを奪われたなんて…僕はこんなにも君を好きなのに」
「そう思ってくれるだけでいいから」
ちゅっと唇に柔らかいものが触れる。
彼女の唇。
こじ開けて舌を絡ませて、口内を探る。
甘いキスだった。
今は彼女は僕のもの。
そう言い聞かせて僕は口付けに夢中になった。

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