夫婦善哉

主の話をしよう。
彼女とはまだ蜂須賀君と秋田君しかいない頃からの付き合いだ。
彼女は僕が料理に興味を示すと、それは丁寧に教えてくれた。
野菜の皮の剥き方から切り方、下処理やら茹で方やらなにやら。
ある程度慣れた頃に、一品作ってみろと言われた。
だから僕は、彼女からおかずの定番なのだと言われた肉じゃがを作ってみた。
この頃はまだ少しおっかなびっくり料理してたな。
いろいろ口出ししたかったのかもしれないけど、彼女は黙って僕の作る姿を観察していた。
野菜を切って肉と一緒に炒めて、水を入れて煮る。
砂糖とみりんで甘味を。
そして煮込んで甘味を染み込ませて醤油で味付け。
できあがった肉じゃがは、皆からはあまり評判はよくなかった。
五虎退君なんかは平気だったみたいだけど、大半は醤油辛いとの意見だ。
彼女は黙ってそれを食べた。
今思うと、あの時の彼女は無理して食べてたんだなぁと思う。
彼女は関東風の醤油辛い味付けや塩辛い味付けの料理が苦手だから。
小食の彼女がご飯を多目によそっていたし。
食べ終わって片付けをしたあと、反省会をした。
彼女に言い渡されたことは三つ。
一つ、味付けの際は少ないくらいから始めて調節すること。
一つ、自分の味覚を過信しないこと、迷ったら誰かに味見を頼むこと。
一つ、食べる人間の顔を思い浮かべながら作ること。
この出来事は僕の大きな糧になった。
失敗は成功の母…なんて言葉もあるくらいだしね。
思えば彼女は僕に何か失敗をさせたかったのかなぁ。
そこから学ぶことも多いからね。
彼女は味にうるさいと思う。
それは自分が不味いご飯を食べたくない…と言うのももちろんあるだろうけど…。
でも僕達に美味しいご飯を食べさせたいとの思いからだろう。
せっかくご飯が食べられるのだから、食べるご飯は美味しい方がいい。
ただの栄養補給…では味気ない。
そう考えているみたいだ。
人数が増えこの本丸が賑やかになるにつれ、彼女の事務仕事が増えていく。
必然的に料理などは僕達で回すことになった。
だから彼女が厨房に立つ回数は減ってしまったけど…。
それでも時々僕達と、料理を作る時間を作ってくれる。
気分転換になるみたいだし、僕も彼女と一緒に料理ができて嬉しい。
彼女と作る料理はいろいろ発見があるんだ。
野菜の切り方から調理の仕方、盛り付けまで。
互いにアイデアを出しあって、とても充実した時間なんだ。
いろんなことを彼女から学んだ。
感謝してもしきれないくらいだ。
今日は休みだから、二人で食べる善哉でも作ろうか。
そう思って小豆を煮る。
たっぷりのお水で柔らかくなるまで煮て、火を止め冷水を入れる。
こうすることで小豆の皺がなくなるんだそうだ。
何度かかき混ぜてから水を捨て豆を洗い、豆が浸るくらいのお水を入れて煮る。
見た目があんこっぽくなってきたら、砂糖で甘味をつける。
ちょうどいい甘さっていうのが難しい。
まず少な目に入れて味をみて整えていく。
舌が甘味に慣れてしまうから時々水でリセットして。
まぁまぁの甘さになったら、塩を一つまみ。
善哉に入れる白玉も。
もち粉に水を入れて耳朶くらいの柔らかさになるまで混ぜる。
まんまるく丸めたものを沸かしたお湯で茹でていく。
浮かんできたら引き上げ時。
氷水を入れたボウルに引き上げる。
余ったものは歌仙君や左文字の三人に差し入れてこよう。
盛り付けた善哉を彼女の部屋に持っていく。
「主?善哉を作ってきたよ、一緒に食べよう?」
そう言って僕は襖を開けた。
彼女の喜んでくれるかなぁ?

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