「大丈夫…?」
心配そうな声に聞き覚えがあった。振り向くと、10冊ほど本を抱えてふらついている優と、それを不安そうに見ている新崎がいた。
優は俺の幼なじみであり、新崎はその友人で俺のクラスメートだ。
「大丈夫か?優、持とうか?というか、それ全部借りるのか」
「あ、浅井くん」
「うん、そうだよ」
優がひょこ、と積んだ本の上に顔を乗せる。
「新崎は借りていないのか?」
新崎はスクールバッグともう一つ大きめの鞄を持っているだけで、本は抱えていない。
「んーん。借りたよ?」
そう言って鞄を指す。
気づかなかったが、手に跡が残るほどの…かなり重そうだ。もしかして、と思う。
「それは全部本か」
「うん」
何冊借りたのかと聞けば、軽く20冊だ、と答えた。20冊といえば、一度に借りられる冊数の限界だ。
「軽くないだろう」
「まぁ、重いね」
と、笑顔で言う新崎。重いだろうに、その表情からは重そうには見えない。
鞄を置いて中身を見せて貰えば、何とも一貫性のない。ミステリー、エッセイ、ファンタジー、外国文学、語学書に歴史書、そして何故か国語辞典。
とりあえずわかるのは、ライトノベルばかり読んでいる優とはまったく違うってこと。
「国語辞典なんて借りてどうするんだ?」
自分のものを持っているはずだろう、と聞く。
「会社によってちょっと違うんだよね」
「ねぇね、結局持ってくれないの?」
「あ、悪い」
何故だろう。優のことを忘れるなんて。
新崎と話していると不思議な気分になってくる。
何とも言えない感情。
今思えば、あれが俺の遅い初恋だったのかもしれない。
いつかのあの日を思い出す
(君はもう、記憶でしかないけれど)
国語辞典は調べものじゃなく読書用だと言っていた。
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