彼は彼女の隣の椅子を引き、静かに腰を下ろした。机に肘をつき、首を傾げるように、手に顔を乗せて彼女に尋ねた。

「何してるの?」
「見ての通りだよ」
「解らないから聞いたのに」
「そう……読書中なんだ」

 彼女は本から顔を上げることなく答えた。意識をこちらに向ける気はないのだろうが、いつものことだと彼は気にしない。
 読書中なのは、見ても解ったのに。彼が彼女に聞いたのはその本の内容だった。

「きみは私を憎んでいる」
「え……?」
「イエスかノーか、だ」

 突然、たんと本を閉じて、彼女は彼を真っ直ぐに見据えた。いつもは何を考えているのかどこを見ているのかさっぱり映らないその目が、光を宿して見えた。

「きみはノーと答える?」
「そりゃ、……あれ?」

 彼は違和感を覚えた。何か、違う気がする。――と、思い至る。そうだ、これを肯定したなら、ノーと答えていないことになる。それでは正しくない。逆もまた然り。イエスと答えたのに、ノーと言っていないことになる。やはり、正しくない。
 眉を寄せて、んんーとうなる彼に、彼女は感情の映らない目を向けている。数秒経ち、彼女が口を開いた。

「…………はい、時間切れ」
「えぇー、なんかズルくない?」
「さて、何を読んでいるのか、だったかな。これだよ、ほら」
「……心理テスト?」
「そう。きみは私を憎んでいないらしいから、安心して」
「この場合ぼくが安心する側なの?」

 まだ全く納得のいかない、という表情を浮かべる彼を気にも止めず、彼女は彼に本を手渡すと席を立った。

「夕食は何がいい?」
「うーん……あ、



きみがいいな



……どう?」
「却下」
「うん……言ってみただけ」


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -