(ワールズエンド・ダンスホール/初音ミク, 巡音ルカの曲パロ
臨也も静雄もも本当に軽いモブ表現有り。二人とも大学生くらいの一般人)



「帰るの?」
「まぁね、やることはヤったし」
「冷淡な奴んだな」

ククッと気持ち悪い笑みを浮かべる見知らぬ誰か。
連絡先を教えてほしい、などと言っている傍ら、俺は無駄のない動きで身支度を整える。

「なんだったら金出すよ?」

くだらない事を抜かす男を一瞥して、何も言わずに艶めかしいライトが照らす部屋から抜け出した。


毎晩のように淫靡なライトが照らすベッドの上で、素性も知らない男女と踊るように、肌を重ね合わせて、汗をかく。
何度も何度も、誰かしらを誘ってホテルのベッドに通っていたら、これがいつの間にか日課になっていた。
慣れない内は、知らない人とホテルに入ることに、不安や緊張を感じていたし、終わった後には、程よく陶酔できた。だけど、今となっては、何の念も抱かなくなった。行為が終わって残るのは軽い疲労感と、必要以上に満たされた性欲だけ。

「金なんて……、冗談言うなよ」

満たして欲しいのは財布なんかではない。もちろん、性欲でもない。

一度限り、を繰り返していても相変わらず良いことなんてないし。やっぱり日常はつまらないままだし。そろそろこの行為も止め時かな、あまり働かない頭の片隅でそう考えた。次は、ギターでもやってみようか。どっかのバンドに入れてもらうか、弾き語ってみるか。帰りに楽器屋を覗いてみようと、やっぱりぼんやりと考えた。

退屈はつまらない。だから、俺は夢中になれるモノを探している。


ラブホが並ぶ裏道から少し行くと大通りに出る。
大通りの明るさが眩しい。ネオンの光とかではなく、行き交う人間にそう感じる。
俺には、彼らが光を放っているように見えるのだ。満たされていそうで、羨ましい。
目を細めて眺めていると、缶コーヒー片手に花壇に座って、項垂れている人が目に入った。
薄手のシャツに緩めのGパン、と当たり障りのないラフな格好だけど、細身で手足が長いので、それがとてもオシャレな格好に見えた。
スタイルが良いって、それだけで得だよな。別の意味で目が細くなるのを感じた。

彼は、ため息ばかりついて、見るからに意気消沈していた。
直感的に、女絡みだろうなと思った。デートをすっぽかされたか、振られたか。一見するとモテそうだし、自分に自身があったのかもしれない。そんな自分が振られたら倍、落ち込むよな。
ああ、可哀相に。
俺の中に加虐心が沸き上がり、彼の元へ歩み寄った。
俺が新しい世界に誘ってあげよう。

「お兄さん、何してるの?」

ゆっくりと上がった顔は、青いレンズのサングラスがかかっていた。それは金色の髪とは似合っているけど、服装と顔立ちには似合っていない。アンバランスな人だと感じた。

「お兄さん、振られたの?」
「…なんだ手前」
「図星?せっかく格好良いのに、可哀相にねえ」
「…うぜえ」

膝の上で作られていた、お兄さんの左拳に力が入った。
俺はその手を取って引き寄せ、言う。

「こっちだよ。行こう。俺が慰めてあげるよ。今どんな気持ち?泣きたい?怒りたい?心が求めることと真逆の行動を一緒にしよう。そうすると、どうなるか知ってる?」

お兄さんは眉を潜めて、怪訝そうに俺を視察した。
だからわざと、口元を盛大に歪めて、お兄さんの中に響くように続きを告げる。

「例えようのない苦しみと痛みが襲ってくるんだよ。一緒に味わおう」

お兄さん手が、何かに反応するようにピクリと動いた。
傍らに女が三人寄って来て、甲高い声で遊ぼう、と言う声が聞こえていたけど、当然無視する。お兄さんの手を思いっきり引いて、ホテルが並ぶ裏道へと引っ張った。





「…マジ、なのか?」

ベッドの中心に座り、お兄さんが来てくれるのを待っていると、不意に言われた。やっと喋ったと思ったら、困惑の言葉だった。ようやく今、状況が飲み込めたのだろう。

「…あ、先にシャワー浴びないとダメな人?俺は気にしないけど。
ああ、俺はついさっき入ってるから。まあ、気になるならもっかい入ってもいいけど…、」

一瞬の間の後に、「どうぞ?」とバスルームを手で示してあげた。
手の動きにつられて、彼の目はバスルームに向けられる。しばらく見つめた後、無言でベッドに乗り上がってきた。


「俺、慣れてるし、気負うことなく普通にしてくれていいよ。あ、俺がリードしたほうがいいかな?そうだよね、いきなり男相手に自発的に勃ったりしないよね。いいよ、気持ちよくしてあげる」

俺と向き合うようにしてベッドに座り、そのまま動かないお兄さんに喋りかけた。

「いつもこんな事してんのか」
「そうだよ。毎晩のようにしてる。まあ、もう飽きてきたし、やめようかな、って思ってたんだけど。最後に、お兄さんを引きずり込んで痛めつけてやろうと思って」

話しながら、服を脱がしてあげようと少し近づいた。

「なんで、俺なんだよ」
「んー、暇だったし、つまんなかったし?っていうか、俺の苛々の矛先がお兄さんに向いたって感じ?誰でもよかったよ?」

そんな、通り魔みたいなことを口にして、可笑しくなる。人を刺さずとも、俺は同じようなことをしている。このままではいつか本当に人を刺しそうだ。
シャツの裾に手を伸ばして、引き上げようとする両手首をそっと、お兄さんに掴まれた。秘かに手が震えている。

「怪我するぞ」
「? あー、そういう趣味の人?いいよいいよ、俺を痛みと恐怖で泣かしてよ。俺、そういう抱かれ方したことないから、新鮮でいいし。いたぶるだけ、いたぶってよ。お兄さん、泣きたそうだから、盛大に楽し」
「違げえよ」

小さいけれど、はっきりした声だった。

「怪我させたくねえから、帰るわ」
「ダメだよ。お兄さんには、楽しんで、笑ってもらわなきゃいけないんだから」

俺は、忘れていた苛立ちを思い出し、睨みつける。

「誰でもいいなら、他あたれ」
「え…、ぁ、……嫌だね。俺は、お兄さんに目をつけたんだから」

言われて始めて、自分がこの男に固執していることに気がついた。

「…怪我がどうのこうのと、振られたことって関係してるの?」

話をそらすように、そう切り出した。すると彼は、静かに話し出す。

「……俺が触れたところに痣ができるんだ」
「なんで?その女の虚弱過ぎない?」
「いや、今まで付き合ってきた女、全員にだから。向こうが特別なんじゃなくて、俺が特別なんだ。
ああ、でも、ははっ、…そう思うか。そう思ってくれるのか」

そう言って彼は、微かに笑を浮かべる。
それを見た瞬間、何かが熱くなるのを感じた。お兄さんを押し倒し、馬乗りになる。

「もっと、もっと楽しそうに笑いなよ。そうしないと、意味ないじゃないか。そうしないと苦しみや痛みなんか味わえないよ」
「…もう、十分苦しい」
「……ねえ、名前教えてよ。あ、君、人の名前を聞くときは、とか言い出しそうだから、先に言うけど、俺は折原臨也」
「…平和島静雄だ」
「ふうん、彼女にはなんて呼ばれてたの?静雄さんとか?静雄くん?呼び捨てかな?静雄?それとももっと崩してシズくんとかシズちゃんとか?」

順々に呼び名を挙げて言って、一番嫌な顔をした呼び名を再び呼ぶ。

「シズちゃん?へえ、随分可愛い呼び名で呼ばれてたんだねえ」
「呼ばれてねえ。勝手に変な呼び名付けてんじゃねえ」

鋭い目を向けられて、本当にこの呼び名が嫌なのだと、と感じる。最愛の彼女でも許さなさそうな勢いだ。彼女になんて呼ばれていたかはわからなかったけど、俺は、この男の嫌がることをしたかっただけだから、シズちゃんと呼んでやることにした。

「シズちゃん、シよ?」

面白くなってきた、とシズちゃんの上に被さり、首元に舌を這わした。
しかし、先ほどとは比べ物にならない程の、強い力で腕を掴まれて、逆に押し倒される。押し倒す力も強く、安っぽいベッドに身体が打ち付けられた。無理矢理に肺と喉から、空気と共にくぐもった声が吐き出される。次に、手首がギリギリと締め付けられ、反射的に「痛い」と声を上げた。それでも、力を緩めてくれる気配はなく、俺は、続けて声を上げてもがいた。

「いた、痛いっ、離せよっ」
「さっきと言ってること違うじゃねえか」

そこで、ようやく力が緩められるが、まだジンジンと痛みが走っている。

「…抵抗しないとは言ってない。いいから、ほら、恐怖と痛みを俺にちょうだいよ。俺は、君に楽しさをあげる。他人をいたぶるのは楽しいよ?男だし、加減なんていらない。痣の数なんて気にしないし。気兼ねなく骨も折ってくれて構わない。後からお金を請求しようとも思ってないし、気にすることなんてないんだよ。盛大に楽しみなよ」
「悪いが、俺には自虐趣味なんてない。一人でやってろよ」

シズちゃんはベッドから降りると軽く身を整えだした。

「え、ちょっと、なんで、なんで…」

焦って引きとめようと、シャツの裾を引っ張るが、すぐに払い落とされる。

「ありがとよ、手前が俺を疑わなかったからよ、なんか、ちょっと救われた。あと、悪かったな。おかげで、さっきくらいの力加減なら、痣は出来るだろうけど骨は折れない、ってのもわかったし。彼女たちも、顔には出さずに、平気だって言ってたけど、どのくらい痛かったのか、手前の反応を見て知れたし。なんていうか、うまく言えねえけど、前向きにがんばれそうな気がする。じゃあな」

シズちゃんは、からかうような笑を浮かべると、振り返ることなく部屋を出て行った。

残された俺の中に渦巻くのは、悲壮。
なんだか馬鹿らしかった。
同じような苦しみを与えてズタボロにしてやろうと思ったのに、救ってしまった。逆に、ズタボロにされてしまった。いや、もう既にズタズタのボロボロだったから、最後の止めを刺されたといった感じだろうか。
もう、自分が間抜けで、みすぼらしくて、笑いが込み上げた。

「自虐趣味はない」という言葉に我に返った。

全くその通りだ。俺は自ら自分を痛めつけて、哀れみの中に身を投じていたに過ぎない。
投げやりに考えて、夢中になれるモノを本気で探そうとしていなかった。本気で好きになろうなんてしていなかった。
くだらない。実にくだらない。

胸が締め付けられる。

「くだらない!何でそんな簡単な事に、もっと早く気がつかなかったの!…っくそっ…馬鹿っ」

「馬鹿だけどっ、シズちゃんの手を引いたのは、偉かったね」

泣きながら叫んだ。泣きながら自分を慰める。

俺は、姿が見えなくなったシズちゃんを追い探すために、艶かしいライトが照らす部屋を飛び出した。
もう、ここには戻らない。
今度は俺が、シズちゃんに救われてやる。





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ステキ『企画』様
に提出させていただいたワールズエンド・ダンスホール/wowaka(現実逃避P)Feat.初音ミク,巡音ルカ
のパロ小説です

素敵な企画をありがとうございました!!

(12/12/15 加筆修正)
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