夢をみた、楽しかった過去の夢



意識が現実に戻ってくるとき、咄嗟に戻りたくないと思った。

だけど、そっと目を上げれば朝日が差し込んでいて、酷く泣きたくなる。
小鳥がさえずっていて、新聞配達の音がして、誰かの足音が聞こえて。そんな、当たり前の日常に吐き気を覚えた。

もういやだ、なんであんなゆめなんかみたんだろう。
あんなあのひとはもういないのに。

思考回路が上手く回らないせいでボヤボヤしてる。
夢は悲しいものではなく、あまりに幸せなものだった。
今じゃありえない幸せだと分かりきっているから、現実と夢とのギャップに、ただ少し着いていけなくなっただけ。
そして、夢の世界に居座りたくなっただけだ。

あの頃は楽しかったなんて言わない。二人が生きてお互いの人生を歩んでいる今の方が満たされている。
けど、愛があればどうにでもなると真剣に考えていた自分が懐かしい。


「懐かしい、ねぇ…」


呟く声が部屋に響いた。なんだかくだらなくて、布団の中で口角がつり上がる。

縁側にただ二人で座っていただけなのに、何故かとても緊張して怖くて、でもとても嬉しかった。なんていう夢。
そんな目新しさはもうない。当たり前のようにギャーギャー騒ぐし、喧嘩もする。

吐きたくなったのは、あまりにも甘いあの人の態度を思い出したからかもしれない。


「普段は苦いくせに」


ポツリと呟いて起き上がる。今日も長い一日が始まるのだ。早くしないとイチャつく時間がなくなるだろう。
業務終わりなら許してもらえないかななんて淡い期待を抱くけど、きっとあのひとは恥ずかしがって怒鳴るんだ。

ああ、でもそれより何より伝えなければ。

速攻したくを済ませた俺は、副長室に急ぎ歩いた。もちろん、夢のことを伝えるため。

伝えたいことはもう決まってる。
さあ、早く言いに行こう。




(貴方が傍にいる夢を見ました)
(今じゃ考えられないくらい初々しい頃の)





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