未送信ボックス








『会いたいです』
『今何してますか』
『好きです』
『触れたいです』
『いつまで一緒にいられますか』

『先生のこと、好きでいていいですか』






先生専用のメールフォルダにはたくさんのメールが入ってる。そのうち半分は送ったことがない。

校舎裏で猫を見つけたとか、虹と飛行機ダブルで見つけたとか、そんな他愛もない話はいつも送る。どうでもいい、と言いながらも律儀に返してくれる先生が可笑しい。

送らないのは、自分のわがまま。先生を本当に困らせてしまいそうな想いの山。
分かってる。自分が子供で相手が大人なことくらい。今は、制服を着ているうちは一緒にいられても、脱いだらきっと。
卒業したらな、とはぐらかされてることは多い。いや、自分がそう考えているだけかもしれない。文字通りにとらえていいのだと思う。それでも、縮まった距離に壁を作られる度に、自分に自信が持てなくなる。


「そもそもがキモいよな…」


未送信ボックスを何とはなしに眺めながらため息を吐く。総じて、気持ちが悪い。どこの少女漫画だとツッコミを入れたくなるようなものばかりだ。
でも、素直な自分の気持ちだ。


『先生は、』


また、新規作成を押して想いを吐き出す。


『先生は、俺がガキでも、いい?』


震える指に、送るわけでも伝わるわけでもないのに、と自嘲する。
何度も自分で打ったメールを見返して…それから机に突っ伏した。
そもそも、先生を待っているのだ。ケータイをやってて怒られても困る。(勉強でもしろ、と白チョークを投げつけられるのはいつものことだ)
勉強はまあ、あとでやるとして、とりあえず一眠りしようかと目を閉じた。






.
フワフワと頭の撫でられる感覚がして目が覚めた。
電球の切れかかったうちの教室の電灯が、仄かに辺りを照らしてる。
煙草の匂いがして、ユルユルと目線を持ち上げた。と、目に入ったものは。


「っギ…」


叫びかけたのを寸でのところで先生が口を塞いでくれた。「学校で叫ぶな」いやいや、原因はアンタだろ!!
先生は、土方先生は、ケータイを、よりにもよって俺のケータイを、しかもチラッと見えた画面から推測するに、メールを、見てたのだ。のだ。にほんごがちょっとわからない。
これが叫ばずにいられるだろうか、いや無理だ。全力で否定してやろう、無理だ。
だって、別に浮気してるわけでもなんでもないけど、メールにはあの未送信の数々が。


「それ、おれのです」

「知ってる。マヨリンのストラップをしているうちの生徒はお前しかいない」

「なら、返してくださいよ!!」

「ああ、これ返信したらな…ほら、」


返信?誰に?沖田さんみたいに変な出会い系サイトの人とやり取りされたら困るんだけど、じゃなくて。
頭が混乱したまま返されたケータイの画面には、先程増えた未送信のメールが移ってる。いや、それだけじゃない。なにこれ。


『俺、ガキだけど、いい?




恋愛に年齢は関係ありません。』


え、恋愛お悩み相談室?なんで敬語?教師目線なのか?そんでどうして当たり前みたいに見てんですか。あまつさえ返信って。

言いたいことはたくさんあって、実際言おうとしたけどダメだった。画面から上げた視線の先には真面目な土方先生の顔。
全部見ろ、と視線で促されて他のメールも開く。


『会いたいです』
“とりあえず連絡しろ。会うかどうかはそれから検討する”
『今何してますか』
“お前のアホな寝顔見てる。アホだな、可愛い”
『好きです』
“んなもん分かってる。俺も好きだ”
『触れたいです』
“ちょうどいいからそのうち肩揉んでくれ。そんで揉ませろ”
『いつまで一緒にいられますか』
“お前が嫌だっつーまでずっと”

『先生のこと、好きでいていいですか?』
“好きなだけ俺に恋してろ”


こっ恥ずかしい言葉のオンパレードに思わず赤面してしまった。きっと今自分は耳まで赤い。痛いくらいだ。
起きたばかりだけど、もう一度机に突っ伏す。ガンッ。鈍い音が教室に響いた。
なんだ、なんだこれは。恋愛ごっこかなんかか。いや、そんなことするような人じゃない。ということはもしかして。


「全然恋人らしいこと言ってこねーし甘えもしねえから、スゲー淡白なやつかと思ったんだが」


そういうこともちゃんと思ってるんじゃねえかと。
安心したような声でそんなことを言われて頭を撫でられたら、


「もう自制なんて効かない……」

「んなもん、いらねえよ。思いっきり甘えてこい」


もう止まらなさそうだと胸の高鳴りを押さえて、俺は赤くなった顔を隠したのだった。

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