おやすみなさい、灯りと一緒にさよなら。
意味のない生殖行為のあとの、なんとなく気だるい体を二人並べて、グダグダと無駄話をしていた。
今日―――正確には日付を越えたので、昨日。
真選組総出で行われた討ち入りに、隊士たちの体はあらぶっていた。各自、軍資金を手に、吉原へ繰り出しているはずである。
それは、土方と山崎とて例外ではなかった。
ただし、二人の場合は、屯所でお互いを慰めあっているだけだが。
裸で布団に転がりながら、不意に口を開いたのは、土方の方だった。
「疲れてんだろ?もう寝ろ」
「いえ、俺は、」
ガシガシ髪を掻きながら、山崎は俺を見る。
困ったように眉を下げて、それから滑るように話し出す。
「人を斬った日は、上手く眠れんもんで」
なんでもないような声色で、しかし、そのくせ表情は弱りきってる。土方は煙草を吸いながら、その様子をジッと見つめた。
そういえば、いつも山崎が風呂に入ってる間に寝てしまっているせいで、彼がいつ寝ているのか知らない。(今日は、たまたま眠らずに山崎を待っていただけだ。)
「今まで殺してきた人がね、暗闇の中から、みんな恨めしそうに、俺を見てくるんです」
続けて言葉を発した山崎に、はて、と土方は首を傾げた。
自分が殺してきた者はどんな姿だったか、土方は覚えていない。覚えていたら、切りがないからだ。
最初に殺した者も、全く検討が付かない。この前まで覚えていたような気もするが、それすらも怪しい。
そんなものを覚えていたら、それこそ毎晩、夢に出てきそうだ。そんなのは勘弁したい。
しかし、この地味な男は。
監察という職業柄、斬り合いや暗殺を行う回数は、決して少なくはない。もし、今まで殺してきた者が、全員夢に出てくるのなら。
それは、ちょっとした地獄絵図が出来上がる。
「だから、眠らない方が、かえって楽なんですよ」
彼特有のヘラリとした笑みを見ながら、土方は煙草の火を消した。
それから、山崎を抱き寄せ、一緒に横になる。
「…どーゆー茶番で?」
「うるせえ叩き斬るぞ山崎」
「……ハ、ハハッ。やだなぁ。ちゃんと嬉しいですよ」
涙目ながらも嫌がらない山崎に、とりあえず殴るのはお預けにして、代わりに背中を撫でた。
「怖い夢見たらよ、」
「はい」
「俺が起こしてやっから」
だから、寝ろ。
言葉少なに告げれば、山崎は目を丸くして。
それから、恥ずかしそうに目を伏せた。
「じゃあ…、頼みます」
「おう、安心して休め」
ハニカミ笑いを浮かべて山崎が瞼を閉じて。
そして、寝息がしたのを確認して、俺は囁いた。
「おやすみ、退」
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