やさしい嘘は夜に解ける。





お前なんか嫌いだ、がその人の口癖だった。


「嫌いだ。お前の顔なんか見たくもない。消えてしまえ。むしろ死ね」

「ハハッ、酷い言われようですね、俺」

「当然だ」


何を以て俺を嫌うのかは知らないけど、いつもその人は俺を痛めつける。
それは、心であったり、体であったり。


「俺は好きですよ」

「うるせえ、死ね」

「アンタのそーいうとこ大好きです」

「お前はマゾか」

「副長限定で」

「マジで死ね」


その人は枕を俺に投げつけてくる。あと、空になったマヨの容器とかライターとかもついでに。
本当にそう思ってるなら真剣持ち出して俺を斬ってしまえば良いのに。しどうふかくご、とか適当に理由を付けて。
それか、嫌だとハッキリ言ってしまえば良い。本気で嫌がれば俺だって無理強いなどはしない。好きな相手には幸せで居てほしいし。

けど、本気でこの人が俺を拒まないうちは。


「もう寝ましょう。俺ァ腰が痛いです」

「なんか疲れた…」

「気のせいですよ」


あの人を抱きしめて布団に潜り込めば、俺より体格の大きいその人は特に抵抗も見せずに俺の腕の中に収まった。そのことがどうしても嬉しくて。
普段は触れさせてもくれないくせに、夜だけはこうやって俺に抱きしめさせてくれるから。
だから、俺はとても嬉しくて、ギュッとその人を抱きしめる力を強くした。


「愛してますよ」

「…、しょうがねえから愛されてやるよ」


(俺が嫌いなんて嘘つき)
(いつかは大好きって言ってほしい)




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