眠りは死と似ているね。



「真選組はさー、死ぬんだったら刃にかかって、って奴がやたらと多いんだよね」


頬杖をついて珈琲を面白くなさそうに掻き回す山崎はため息混じりに愚痴り始めた。
ファミレスは夜中という時間帯だからか、人が少ない。とは言え、全くいないわけではなく、授業中の教室の中程度にはうるさい。そして、俺らもその中の一部。

けど、目の前の男は売女のように甘ったるい誘惑を駄々漏れにしながら、喋っている。誘惑は醜いほど溢れてるのに、どこか優雅さを滲ませるのは、この男の賜物か。生返事のような相槌を打って、俺は先を促した。
元々、話を聞く気は、あまりない。パフェを奢るから、と酒を呑まずに此方へ来ただけだ。お酒はまたあとでも良いだろう、と思ってるうちに行きつけの所が店じまいの時間を過ぎてしまった。


「なんで道具にかかって死にたいんでしょうね。刀なんて人殺しの道具なのに」

「武士の誇りなんじゃねーの?」

「旦那は刃にかかって死にたいタイプ?」

「いんや?寿命全うして静かに死にてータイプ」


答えながら彼の顔を見てパフェを食べる。
そして、言い様もない嫌悪感にぶち当たった。

パフェを口に含みながら、甘味が広がるのを感じた―――ハズだった。が、しかし感覚がない。
なんか、嫌な予感がする。死がすぐそばにあるような、背中合わせになってるような感覚だ。


「俺は、嫌なんです」


フワリと山崎が笑った。笑顔に陰鬱としたものが見える。
俺はゴクリと生唾を呑み込んだ。口の中がカラカラに乾いてる。
嫌な予感は、大抵当たる。


「昨日の夜ね、毒を盛られたんです。ゆっくり効いて、24時間後には苦しまずに死ねるそうです。
俺が、この珈琲を飲んで、屯所に戻って眠りに付いたらちょうど良い頃でしょう」

「な、んで」

「最期に旦那と喋りたかった。旦那は、俺がどう生きようがどう死のうが構わないって言ってくれそうですし」


これでも結構幸せな人生だったんですよ、と山崎はニッコリ笑った。
周りの音がさっきから脳に入らない。それでいて、この男の声も周りの音に溶け込んでしまいそうで。
どうする。どうすればいい。
そんな、穏やかな顔で死刑宣告を受け入れて喜んでいるような奴に、何を。


「…おやすみ」

「…?」

「また、明日な」


結局、何を言うこともできずにありきたりな台詞を吐けば、目の前の男は娼婦のような笑顔ではなく、年相応なそれで珈琲を飲んだ。

パフェは、もう溶けている。




(眠るように死んでいきたい)
(次に目覚めた時は一番に君が見たい)






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