悪夢からすくってくれますか?



これは夢なんだと自分に言い聞かせる。
夢だから、怖くはない。罪もない。
それだけを考える。感情は邪魔だ。余計なことを考えれば迷いが生じる。

―――自分のやる行為が暗殺だと知ったのは、いつからか。

そこに妥協や躊躇は一切ない。如何に一撃で殺せるか。如何に証拠を残さないか。それが勝負になる。

時間も真夜中だし、きっとこれは悪夢だと言い聞かせ、今日も刀を振るう。

帰れば、温かい仲間がいる。オープンに甘い男と不器用だが甘い男はきっと違う方法で自分を労うハズだ。
風呂に入って、殺りたい衝動をどう治めようか頭を悩ませれば、きっともう一人の甘い男がやってくる。

お背中、お流し致しましょうか。

ヘラヘラ笑いながら、自分の躰に触れるだろう。そして、耐えきれなくなって押し倒すのだ。
首に手をかけ、息の根を止めようとしながら自分の昂りを相手にぶつける。痛みに顔を歪める彼を見て、きっと更に力を込める。


そうだ、早く帰らなければ。夢ならば起きなければ。
平々凡々な彼が、自分の帰りを待ってるのに。


「動け、ポンコツ…っ」


血の味がする。目の前がボヤけてる。躰から刀が伸びているのが見えた。
明るい江戸の夜空には綺麗な星が申し訳なさそうに輝いている。それが、地味な自分の恋人のようで、思わず笑ってしまった。


無様だって分かってる。けど、この期に及んでまだ助けを求めていた。


「ザキ、起こしに、こいよ…」


普段から遠回りな表現しかできない自分は、最期まで素直になれなかった。



(助けてとは言えないけど)
(あんただったら分かっただろィ?)

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