お正月withよろず屋


『〜〜♪』

鼻唄を歌いながら、てきぱきと料理を作ってく。
こうしてキッチンに立つのは久しぶりだ。最近は、マスターの喫茶店でご飯を食べたり、綾乃さんがご飯を作ってくれていたり、と自分で料理をすることがなかった。それに、元々そんなに食べなくても動ける体だからお腹が減っても食べないこともしばしば。
だから、今すごく楽しんで料理をしているのが自分でも分かる。

前は忍術学園で毎日のように食堂のおばちゃんの手伝いをしていたから料理の腕は人並みよりは上手い。と思う。

味付けを確認して最後の微調整をすれば、はい完成。うん、まあまあ良いんじゃない?重箱に作ったものをどんどん詰めて行けば、それらしくなっていく。
余った分は、……そうだ快斗くんにもあげようか。確かお母さんも外国から帰ってくるって言ってたし。

ピロリンと鳴った携帯に俺は手を止めてメールを開く。あ、綾乃さんからだ。年越しそば食べない?だって。そんなの行くに決まってるじゃないですか。
癒しの存在からのお誘いに即答でイエスと返事をして、俺はすぐに家を出てお隣さんの綾乃さんの家にお邪魔した。

「あ、来た来た!」

カチャカチャとシンクに立って洗い物をするのは綾乃さん、ではなく変装を解いた明美さんの姿だった。
食べよっか、と微笑む彼女と一緒に食卓を囲む。テレビは紅白歌合戦が流れていて、目の前の机の上には美味しそうな年越し蕎麦。うん、これぞ年末って感じ。

談笑しながら蕎麦を食べていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。

「やあ、こんばんわ。」
「来たぞ〜。」

勝手に玄関の鍵を空けて入ってきたのはマスターとフリーク。いつも通りのメンバーだ。これでよろず屋全員集合だな。
2人が持ってきてくれた大量の酒で乾杯をすれば、いつの間にかテレビでは年越しのカウントダウンが始まっていた。

「1年が立つのは早ぇな。」 
『本当にね。』

ゼロー、と叫ぶアイドルの声と同時に【A HAPPY NEW YEAR!】のテロップがテレビに流れる。

「「「『あけましておめでとう。』」」」

カチン、ともう一度飲みかけのお酒で乾杯する。
ぐいぐい進んでいく酒の席で、誰一人酔うことがないのに空瓶ばかり増えていくのはなかなかに面白い光景だと思う。

『あ、時間……。』

時計の長針が3時を指しかけているのを見て、慌てて貴重品だけポケットにいれて窓を開けた。

『すいません、今から快斗くんと初詣行ってきます。朝には帰ってくるので待っててくださいね!』
「おう、行ってらっしゃい。」
「私達は朝まで酒盛りしてるよ。」
「気を付けてね!」

窓から自分の部屋に侵入して用意していたものを持って、そのまままた窓から外出する。
地上に降りずに建物から建物へと移動するのはもはやデフォルトだ。だってこっちの方が早いからさ。

それにしても、なんでこの時間から初詣かって?
快斗くん、年越しはお仕事だから。粋なことするんだー、とわざわざ年越しを選んで予告状を出してるのを見てよくやるなと思ったよ。

『あ、快斗くーん!』

待ち合わせの神社の裏手に行けば、まだ真っ白な衣装のままの彼を見つけて声をかける。俺に気づくと同時にバサッとマントを翻して私服に着替えた快斗くんは得意そうに笑った。

『あけましておめでとう!』
「おう、あけましておめでとう!」
『仕事どうだった?』
「くく、余裕だよ。」

見せてくれたビックジュエルは月に翳してもなにも起きなかったけど彼は一仕事終えて満足そうだ。

長い行列を並んでようやく本殿にたどり着いたのは、もう夜が明けてそらが明るくなっていた。
神様なんて信じてはいないけど、たまには祈るのも悪くない。真剣に願ったのは、これからもみんなと一緒にいれることと、今はもう会えない忍術学園のみんなが少しでも長く幸せに生きれること。
……信じていない神様、どうかこの願いを叶えてください。

神社を出て、コンビニで買ったコーヒを飲みながら帰路につく。元旦なだけあって今日は朝早くても人通りはお昼並みだ。

「お前はこのあとどうするんだ?」
『綾乃さんの家でまた酒盛りの再開だよ。』
「よろず屋はザルな人間ばっかだな。」
『それは俺も思う。快斗くんはどうするの?』
「俺は今から母さんと買い物。荷物持ちしろ、て言われてんだ。」
『ふふ、大変だね。』

ぶつぶつ文句を言いながらも楽しそうにしてるのは、きっとお母さんと久しぶりに会ったからだろう。分かりやすい。キッドの時との差がありすぎだよ。

『じゃあこれ、お母さんと食べてよ。』
「え?」
『お節作ったんだ。味は大丈夫なはずだから。』
「え、え、まじで!?作ったのかよ!サンキュー!!母さんきっと喜ぶぜ。」

別れるまでずっとお礼を言ってルンルンと帰る快斗くんを見ると、作ったかいがあったなと思う。
マスター達も喜んでくれると良いけど。

『ただいまです!』

行きとは違って玄関から明美さん家に入る。
待ってくれていたみんなの前にお節を出せば、きらりと輝いた3人の目を俺は見逃さなかった。
ふふ、良かった。

「マジうめぇ!」
「ふむ、店で出せるレベル以上だね。」
「レシピ教えて!」

みんな今年もよろしくね。俺、頑張るからさ。



あけましておめでとう。
大好きだよ。




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