004

その日は思ってた以上に疲れてた。
たぶん。

組織の仕事を終わらせて、幾つかあるセーフハウスのうちの一つに帰って来たのは、日もすでに跨いだ真夜中だった。

全身真っ黒な服装から臭う鉄の臭いは、今日殺した人間のものだ。普段なら、お風呂場に直行してた。
誰が好き好んで、他人の血を吸った服をいつまでも着てるか。でも、この時はお風呂場に行くよりも先にベッドにダイブしてた。
血の臭いがくさい。気分が悪くなりそう。でも、今は寝たい。そう、寝たいんだ。

眠い。とにかく眠い。
確か明日は久しぶりの休みだ。表も裏も予定はない。何か起きない限りは。
よし、寝よう。昼まで寝てやる!

そう決めたのと同時に意識は泥沼のごとく沈んでいった。おやすみ3秒である。







ふと外が騒がしくて目が覚めた。
日はとっくに上がっていて、窓から差し込む太陽が眩しい。

安眠妨害はどこのどいつだ。
のっそりとベッドから起き上がって窓の外を見る。目に入った光景に一気に目が覚めた。

「……なにがどうなってる。」

マンションの周りを取り囲むように停めてある警察車両に、制服警官、刑事、機動隊、爆発物処理班がところ狭しといる。
どういうことだ。寝てたから状況が全然わからない。

慌てて風見に電話を掛ければ、彼はワンコールで出てくれた。

「風見!借りてるマンションの周りに機動隊やら爆処の連中がいるんだけど何があった?」
「………え?」
「神谷町にある××マンションだ。」
「なっ、……進藤さんのセーフハウスは神谷町にはなかったはずです!」
「つい最近増やしたんだよ。爆処がいるってことは、」

「っ、そのマンションには爆弾が仕掛けられています。都内の高級マンションに2つ。犯人からの要求は10億。住民が1人でも避難すると即爆発すると言う犯行予告です。内一つは解体が終わってますが、本命はそのマンションに仕掛けてある方らしくかなり作りが複雑なようです。爆処が苦戦しています。」

複雑な作り、か。
爆処が苦戦するような物を素人が作れるか?かなりの腕を持っている輩か、バックにどこかの暴力団や組織が絡んでるか。どっちにしろ調べないと。

「爆弾はどこにある?」
「20階のエントランスです。」

……まじかよ。

私の部屋20階なんだけど。なにこれ、ついてない。とりあえず、風見には黙っといた方がいいよね。余計な心労かけたくないし。

「で、上層部の結論は?」
「犯人からの要求を呑み、住人の避難が開始しています。」
「了解。風見、犯人はケツもちかもしれない。調べろ。それから、また何か進展あったら連絡して。」
「はい。………あの、進藤さん。」
「どうした?」
「避難、してくださいね?」
「分かってるって。じゃあね。」

不安気な風見の声に笑って返した。
でも、すぐに避難するわけにもいかないよな。まずこの格好をなんとかしないと。

全身黒服だから浴びた血は目立たないけど臭いで絶対バレるし、それにこのまま外に出れば、いろいろ不味い。
ここのセーフハウスの存在を一部の組織関係者は知ってるしね。

え、なんで身内が知らないのに組織が知ってるのかって?
無理矢理押し掛けられたんだよ。偽名の「東條瑞希」名義で借りてるから調べればすぐに割れる。
そんな場所で、顔見知りの警察官に出くわして本名なんて呼ばれてみろ。それこそ、私の、ひいては降谷や緑川の命にかかわる可能性がある。

クローゼットから適当に服を身繕い、ラフな格好に着替える。仕上げにメイクで人相を少し変え、キャップを目深に被れば、ギリギリセーフラインだろう。
本格的な変装ができないから、親しい奴には雰囲気や声でバレるだろうけど、気休めぐらいにはなる。


……それにしても、この血まみれの服どーするかな。本当は燃やしたいんだけど。
しょうがない、ビリビリに破いて捨てるか。

「そろそろ避難しないとヤバイな。」


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