TRIP*名探偵コナン | ナノ
 道は切り開くものである-05-


「蓮夜くん、ご飯できたわよ。」

ひょこ、とドアから顔を除かせた明美さんに1つ返事をしてからパソコンの電源を落とす。リビングに行けば美味しそうな料理が机に沢山並べられていた。

『いただきます。』
「ふふ、召し上がれ。」

あれから2週間。
新聞でもテレビでも10億円強奪犯死亡のニュースが報じられ、世間的に宮野明美は死んだ。誰からも疑われることなく消えた。真相を知るのは当事者の4人だけ。明美さんの意志で、赤井秀一にも知らせてはいない。

そして今、彼女は変装をし別人として生きている。"月城綾乃"と言う名前で。

因みに住んでいる場所は、俺の住んでるマンションの隣の部屋。何かあったときに対処しやすいように空き部屋だったそこを手配した。お隣さんという事で、明美さんはよく俺の家にきてご飯を作ってくれる。

頼りになる弟ができたみたい、と笑ってくれた時は胸が熱くなった。嬉しさと同時に、【忍たま】の世界で同じように俺を弟として扱ってくれた土井先生を思い出して切なくもなったのだ。
でも、でも。今、目の前で笑ってくれる明美さんがいるから"善し"としないとね。だって感傷に浸ってもあの世界にはもう戻れないだろうから。

『ごちそうさまでした。』
「お粗末様でした。」

カチャカチャと食器を片付け始めた明美さんに、言わなければいけないことがあったと切り出せば、首だけをこちらに向けて「なにかしら?」と不思議そうな顔をした。

『志保ちゃん、組織から逃げ出しましたよ。』
「………え、?」
『"宮野明美"が組織に殺されたことで反発して監禁されてしまったんです。ですが、そのとき持っていたAPTX4869を自ら飲んで工藤新一と同じく幼児化しその場から逃げ出した……。』

驚きで固まったままの明美さんとの間に沈黙が落ちる。ジャアジャアと蛇口から出しっぱなしの水の音がやけに大きく聞こえた。

『今は工藤宅の隣に住んでいる阿笠博士の家で"灰原哀"と言う名前で暮らしています。』

怒られる、かな。怒られるよな。任せてくれと言っておきながら、危険な目に合わせていたわけだから。言うなれば騙したのと同じなのだから。
でも前にも言ったが、俺は最初から志保ちゃんに関しては干渉するつもりは一切無かった。

だって、江戸川コナンには灰原哀が必要不可欠だから。

見守りはしていた。ただ、手は出さなかった。
彼女がAPTX4869を飲み込んだ瞬間は柄にもなく冷や汗をかいたけど。もし、もし、幼児化せずに死んでしまったらどうしよう。心臓の音で居場所がバレるんじゃないかと思うほど緊張した。

『すいません。貴方に信じてもらっていたのに、志保ちゃんを危険な目に合わせてしまいました。』
「………そんなことないわ。」

頭を下げた俺の肩に優しく手を置いた明美さんの言葉に俺は困惑した。

「蓮夜くんね、覚えてる?貴方はね、"何とかする"とは言ってくれたけど、"危険な目に合わせない"とは言ってないのよ。」

確かに、『必ず何とかします。』とは言ったけどそれ以外の事は言ってない。原作を知ってたからこそ、何とかなると分かってたから。

「つまりね………。結果、何とかなったからいいのよ。志保は生きてる。それだけで私は良いの。」

っ、……馬鹿だ。馬鹿だなあ。
『そんな、曖昧な言葉だって分かってて、……俺を信じたんですか……、?』


「ーーー蓮夜くんだから信じたのよ。」


ふわりと笑った彼女の笑顔は、闇をも照らせる光のようだった。
ありがとう。俺の愛しい人。



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