落書き帳 | ナノ



【探偵】降谷と同期の2番手エース



私の同期にはとてつもない奴がいる。

彼は、引くぐらい頭の回転が早くて、記憶力もずば抜けて良く、外国語を巧みに操り、体術も強く、ボクシングはプロ並みかそれ以上の腕前。運転技術はどれだけ細い道でも、例え高速道路でも派手なカーチェイスを繰り広げれるほど上手いし、友人のお陰で爆弾処理もできるし、料理だって料亭並みの物をサクッと作ってのける。おまけにベビーフェイスのイケメンときた。

おまえ、どこの漫画の主人公だよ。と突っ込みたくなるレベルである。

そんな同期を持ってしまったが最後、私はいつだって2位の座だ。おっかしーな。私、結構優秀な部類にはいるんだけど。
頭だって良いし(今まではどこにいても首席だった)、もちろん外国語だっていろいろ喋れるし(英語にフランス語にスペイン語、それからロシア語に中国語)、体術だって強い(昔から空手・柔道・剣道をしてるし)。運転技術だってそれなりにあるつもりだし(車にバイクにセスナと船も乗れる)、料理も一応出きる(一般家庭並みなら)。顔だってそこそこ美人の部類に入るはず(たぶんね)。
これでも敵わないあいつはもはや化物じゃないか。2度目の人生だというのに、まるで歯が立たない。

『マジふざけんな、降谷零。』
「聞こえてるぞ、名字名前。」

ぬっ、と背後に現れた降谷にチッと舌打ちが溢れた。心の声漏れてたわ。名前失態。

頼んでた資料は、と訪ねてきた降谷に意識は目の前のパソコンに向いたままデスクの上の紙の束に視線をやった。
手を止めてる暇ないんだよ、こっちは。 元々溜まっていた仕事に、降谷から頼まれた仕事。膨れ上がった量に手一杯だ。あんたもなかなか登庁出来ないかもしれないけど、こっちもおんなじだっつーの。

「助かった。すまないな。」

そう思ってるなら頼むな、とは口に出さない。大人だし、降谷よりも生きてる年数長いし。
……まあ、さっき悪態ついたけど。



さっきも言ったと思うけど、私は2度目の人生を歩んでる。要するに、前世持ちっていうやつだね。

1度目の人生もバリバリの公安警察官だった。
仕事に追われて、結婚することもなかったし、彼氏が出来たとしても長続きなんてしなかった。寂しい奴とか言うな。この仕事は天職なんだ。だから別にパートナーがいなくたって全然問題なし。むしろいらない。こんな職に就いてたらいつ死ぬかわからないしね。
案の定、前世は殉職した。
潜入捜査中に組織同士の抗争に巻き込まれて死亡。腹に受けた銃痕は、生まれ変わっても未だに残ってる。
あの時感覚でわかったよね。ああ、これは死ぬなってさ。普通は怖いとか思うんだろうけど、私はそうじゃなかった。最後に感じたのは「良かった」っていう感情だけ。
だって、一緒に任務に当たっていた部下が生きてたから。後はあいつが上手く処理してくれる。あいつは悔しいけど私より優秀だもん。
自嘲しながら目を閉じたら、第2の人生が待ってた。思わずなんでだよって突っ込んだけど、まあそれも悪くないと思う。また父さんと母さんの顔を見れたしさ。

そして、2度目の人生も私の天職に就くために頑張った。お陰で前世よりスペックがかなり増えたと思う。今の私が前世に戻ったら、間違いなく部下よりも優秀でトップエースだね。
なーのーに、なんで万年2位なんだよ!もはや降谷は化物じゃね?とか思い始めてる。

警察学校を卒業したら部署が違うだろうしまあいっか、とか思ってたのに何故か部署が同じだった。なんでだよ!ジーザス。
しかも階級はあいつの方が上というね。まじ意味わからん。



「名字、置いとくぞ。」
『ん?……あ、ああ。』

渡した資料をチェックし早々に立ち去るかと思えば、珍しく私のためにコーヒーを淹れてくれてた。
え、普通に怖いんだけど。いつも私にそんな優しくしないじゃん。明日は雨か……?

「あとどれくらいで終わる?」
『1時間かな。』
「久しぶりに飯でも行くか?」
『………奢り?』
「ああ、もちろん。これの礼だ。」

丸めた資料の束がポンッと頭に当てられる。
なるほど、出来が良かったから機嫌がいいのか。礼なら断る理由はないな。

『江古田に最近できた料亭知ってる?』
「ああ、わかる。」
『そこがいい。』
「了解。」

一旦手を止めて、淹れてもらったコーヒーを煽る。さて、気合いを入れて頑張るかな。

『降谷。』
「ん?」
『30分で片付けるから、待ってて。』
「ふふ、御安いご用だ。」

クスッと笑った降谷に、にやりと笑い返した。

引くぐらいハイスペックすぎて意味わかんないけど、あんたのこと嫌いじゃないよ。
それに、降谷といると昔の部下を思い出すから居心地はいいと思ってる。全然似てないのになんでだろうね。



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