雲外蒼天-天女編- | ナノ


▼ ただ堪え忍ぶ-04-


誰もいない牢屋の中でゴホゴホと咳き込む。
あー、もう思いっきりやってくれやがって。本当によく生きてるよ、俺。

つい先程、急いでここから出ていった2人の忍のうち、明らかに格下の俺で憂さ晴らしをしていた忍に悪態をつく。
情報を引き出すための拷問なら未だしも、憂さ晴らしの拷問で殺す気か。俺は断じて玩具じゃない。ダガキダケは若殿も頭が可笑しいが、忍も頭が可笑しいらしい。まったく、困ったもんだ。

「やあ、生きてるかい?」

ふとかけられた声に口角がゆるりと上がった。相変わらず、神出鬼没だなこの人は。

『っふふ…、気づいてましたよ…
        ーーーーー雑渡さん。』

前を見据えれば、牢屋の外でいつもの胡散臭い笑顔で立つ彼の姿があった。そして、手元には牢屋の鍵。俺に見せるかのようにくるくると回して遊んでいる。

「出たい?」
『意地悪ですね、出たいに決まってるじゃないですか。』
「じゃあ、出してあげるよ。」
『見返りは?』

間髪入れずにそう返せば、雑渡さんはにやりと笑った。本当、悪い顔してる。誰が見ても悪役だと思えるほどの顔だよ。

「天女様の抹殺って言ったら?」
『……意図が読めないんですが。』

何故、雑渡さんが天女様のことを?それに何故、抹殺なんだ。黄昏甚兵衛なら天女なんて存在、興味を持たないわけがない。そして欲するに違いないと思ったのに。もちろん抹殺が条件なら俺は喜んでやるが、真意がわからなさすぎる。

「実はね、天女様が来てから度々忍術学園には訪ねてたんだ。君は忍務でいなかったけどね。」
『…学園のみんなはそんなこと、…… 』
「侵入者に対して敏感な小松田くんは疲れ果てていたし、忍たまで唯一気づきそうな6年生達は揃って天女様の尻を追いかけていたからね。」
『……ったく……。』
「ずっとこっそり学園を客観的に見ていたんだよ。」

お気に入りの保健委員の子達にも会わずに、か。つまりは監視されてたわけね。
しかし、これはやばい。忍たまの味方とは言え、誰も外部からの監視に気づかなかったのか。頼りになる先生方は、遠方の忍務や勢力衰えを見せないためにあちこち走り回ってくれてるし、俺は忍務で学園を離れることも多々あるし、残されているのは堕ちた上級生と正気の下級生だけ。そりゃ、気づくわけないか。

『……で、結論は?』
「あれは、"異物"だね。見ていて気持ちが悪いよ。あんなもの、タソガレドキは要らない。でも現状を知らない他国の城はそうじゃない。"天女"という名前だけでも欲する理由になる。天女様を巡って戦は起きる。絶対にね。」
『でしょうね…。現に…カラキダケは戦の準備をしている……。』
「タソガレドキはね、そんな下らない戦にお金は使いたくないんだよ。」

民の命ではなく、お金の問題なんですね。まあ、タソガレドキらしい答えっていやそうなんだけど。
しかし、戦をするって言われなくて良かった。タソガレドキ相手なんて今の学園には太刀打ちできない。前までの学園ならタソガレドキ忍軍でも互角に戦えたと思うけど、今は絶対に無理だ。

「戦に巻き込まれないようにするには、元凶の天女様を抹殺するのが一番手っ取り早いでしょ?忍術学園にとっても有益だと思うんだけどどう?」

どう、なんて聞かなくても答えなんてとっくにわかっているでしょう。俺がさっきダガキダケの奴等にあの話をしたとき居たんだから。俺がしようとしてることを分かっててその条件を出すなんて、本当に意地悪。

『……喜んで…。』

交渉成立だね、なんて言って牢屋の鍵を開けて拘束されてた縄を切ってくれる。どさっと崩れ落ちる俺を受け止めてからそっと頭を撫でた雑渡さんの手は凄く優しかった。

「良く生きてたね。血だらけの蓮夜くんを見たときは肝が冷えたよ。」
『……は、…雑渡さん……が優しすぎて、本物か…どうか疑い…そうです……。』
「酷いこと言うね。私はいつでも、忍たまや君には優しくしてるつもりだよ。」
『ふふ……、そうでしたね…。』

人の温もりに包まれて、張りつめていた糸が緩んでしまう。飛びそうな意識をなんとか繋ぎ止めていたら、雑渡さんか珍しく困った顔をした。

「取って食いはしないよ。だから少しお休み。」

とん、と首後ろに軽い衝撃がすると同時に俺の意識はブラックアウトした。


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