雲外蒼天-天女編- | ナノ


▼ ただ堪え忍ぶ-01-藤香side


蓮夜さんが、帰ってこない。

4日で戻ると言っていたのに、もう今日で7日目だ。忍務が長引いているのか、それとも何かあったのか。いつもは宣言通りの日数か、それ以前に帰ってきていたから心配でしかたがない。

忍たま低学年の子達は、毎日毎日飽きもせずに暇さえあれば学園の門の前でずっと蓮夜さんの帰りを待っている。くのたまのみんなも同じようなものだけど。
堕ちた忍たま達は、相変わらず天女様ときゃっきゃっうふふと遊び呆けて、そして誰が天女様に相応しいかなんて馬鹿な奪い合いをしている。
全くもってくだらない。蓮夜さんがどれだけ苦労していると思っているんだ。それに、いないことにすら気づかないなんて。

正直、失望した。
可能性を信じていたけど、期待しない方がいいのかもしれない。こんなこと、蓮夜さんの前では到底言えることじゃないけど。

「藤香。」
「あ、伽耶姉さん。どうかされましたか?」

名前を呼ばれて初めて姉さんがいることに気づいた。やっぱり学年1つでこれだけ差がつくもんなんだな。精進しないと。

彼女は、くのたま最上級生の不知火伽耶先輩。
くのたまのリーダーで、教師にも忍たまにも一目置かれている凄い人。そして、私が姉のように慕い、尊敬する人。

「蓮夜さん、まだ帰ってこないわね。」
「……そうですね。」
「しっかりしなさい。上級生の貴方がそんな顔してたら下級生はもっと不安になるでしょう?」

ね、と私の肩に手をおいた姉さんはいつも通りにみえるけど、その表情はどこか浮かないものだった。ずっと傍で見てきたからなんとなくわかる。姉さんも心配なんだ。

「ねえ、藤香。蓮夜さんがいないだけで、こんなにも学園内は不安定になるものなのね。知らなかったわ。」
「……蓮夜さんはみんなから慕われてる人ですから、影響力も大きいんだと思います。」
「そうね。」

どこか遠いところに目を向けている姉さんは、今何を考えているんだろうな。なんて、私の考えが読めてしまったのか、私の方に向かい合いその綺麗な唇を緩めた。

「私ね、蓮夜さんも所詮ただの男だと思ってたのよ。」
「え?」
「でも違った。男とは思えないほど、女の私達のことを分かってくれてた。くのたまとしての生き方を、苦しみを理解してくれてた……。」

凄いわよね、と呟いた姉さんはその時のことを思い出すかのように目を閉じてから、くすりと笑った。あ、珍しい。こんな笑い方するなんて。蓮夜さんと姉さんが2人だけで、きちんと今のこの学園について話せる場を設けて良かった。
本当に蓮夜さんは凄いな。男に対して厳しすぎるが故に、忍たま達から"堅物"・"無愛想"と呼ばれている姉さんが、あの短い時間でここまで心を開くなんて。

「………蓮夜さん、」

無事ですよね?なにしてるんですか?
貴方がいないと、こんなにも心が駆り立てられる。不安で不安でしょうがない。
みんな待ってますよ。ほら、姉さんだって唇を噛み締めて、いろんな感情を押さえこめてる。こんな顔するなんて滅多に無いことなんですから。
だから、早く無事に帰ってきて。

ーーー私、貴方がいないと駄目なんです。


prev / next

[ back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -