雲外蒼天-天女編- | ナノ


▼ とあるくのたまの告白-03-


ざあああ、と俺達の間を風が通りすぎていく。
ただ互いの顔を見つめあって何分、何十分、どれほどそうしていたかはわからない。いや、もしかしたらたった数秒だったのかもしれないが、俺にはひどく長く感じた。

「………すいません。馬鹿、みたいですよね。」

沈黙を破ったのは藤香ちゃんで、その表情はなんとも形容しがたいものだった。

「今の、忘れてください。」

立ち上がって背を向けた藤香ちゃんの腕を、俺は思わず掴んだ。このまま行かせたら駄目だと思った。この腕を離したら駄目だと。

『………っ、その話…本当……?』

俺の口から出た声は思った以上に震えていて、柄にもなく緊張しているのが自分でもわかった。

だって、だって、俺だけじゃなかった。あの時代から弾き出され、どうしようもない孤独を味わったのは俺だけじゃなかった。一人じゃ、なかった。
天女様は違う。同じくあの時代から弾き出された者だけど、俺達とは全てが違う。この時代に生きる覚悟、厳しさ、苦しさ、何も分かっちゃいない。愛されて当たり前。自分中心の立ち振舞い。浅はかすぎる短絡的思考。そして何より、この時代に生きる俺達を、忍として生きる俺達を否定した。

『…藤香ちゃんも……"平成"から、来たの…?』
「……はい…。……っ蓮夜さんや天女様と同じ……平和で無条件に優しい"平成"の日本から、……この【忍たま乱太郎】の世界に……来たんです。」

神様なんて信じない。信じないけれど、この残酷で優しい奇跡に俺は少なからず感謝した。異世界の、この広い日ノ本で同じ境遇の子に出逢えた。

『……俺も…否、…"あたし"も、だよ……。』

なんて日だろう。
竹成様に"あたし"の事を話したときとは違う感情が湧いてくる。

あの時はただ、竹成様の杞憂を取り除きたくて、竹成様に未来への希望を持って欲しくて、竹成様に"あたし"を知って欲しくて。
でも、今日は違った。同じ"平成"から来た、同じ立場の忍の女の子。知りたい、と思った。知って欲しいじゃなくて、知りたい。同じ価値観を持っている子の話が聞きたい。この世界は、この時代は彼女の目にどう写ったのか。

『聞かせて、くれないか…?"雨宮藤香"の今までを……。』

嬉しそうに、哀しそうに微笑んだ藤香ちゃんの顔をこの先俺は忘れることはないだろう。

今までたった一人で抱えてきた過去。それを分かち合える人に出逢えた喜びはきっと俺達にしか分からない。そう、天女様に分かるはずがない。

(( 世界でたった一人の俺の理解者 。))



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