いいかげん気付けばいいのに



その日は少し曇ってて、空気もなんだか湿っぽかった。



まぁ、僕にはあまり関係のないことだけど・・・






「おい、喜八郎。どこへ行くんだ・・・」




今日の授業はもう終わった。

だから今は自由な時間で


座学の予習復習をしてる生徒や、組み手なんかして


実技の力を上げようと鍛錬する生徒もいる。


僕が何をどこでしようと勝手な話なんだけどなぁ



「分かってるくせに聞くの?」



少し苦い表情を浮べてからあきらめたように

僕に声をかけた滝は大きくため息をついた。




「・・・いくら罠を仕掛けていいと言っても、限度くらい考えろよ

                        保険委員が不憫だ・・・・」



小さく頭をかかえる滝。



「滝ってばお節介。」



ポツリと一言だけそう返して僕は止めていた足を再び動かした。



「な、なんだとー!!おい、こら!!喜八郎お前ぇー!!」




滝の文句もそこそこに、歩きだしてついたのは

いつもの場所。




今日はたーこちゃんをいくつ作ろうかな。



肩に担いだ踏み鋤を手に、作業に取り掛かろうとしたとき



ふと、僕の立つ位置から少し先の地面に

ぽっかりと空いた穴を見つけた。



あれはたぶん一昨日作ったたーこちゃん129号だ。



また保険委員の誰かがはまったのだろうか?

気になったから近づいて穴の中をのぞいてみた。




そこまで深いわけじじゃないその穴。


1、2年生じゃなければおそらく自力で這い上がれる程度のもの。






僕の視界に移ったのは



小さく丸まった見覚えのあるピンク色だった。







「おやまぁ・・・名前だ。」




一目見て誰だか分かったそのピンクの塊は

僕の口から出た名前にピクリと反応した。



彼女は苗字名前。


僕の幼馴染で、くのたま上級生をやってる。



長い間幼馴染をやってるんだ

名前が何で僕の蛸壺の中で体を小さくして丸まってるのかなんて



考えるまでもなく、容易にわかった。


ピクリと体を揺らしたきり、なんの変化もない名前。

しかたないから、僕も名前のいる蛸壺の中に飛び降りた。



それから、丸まって、面白いくらいにまったく動かない名前の隣にしゃがみこむ。





「ねぇ、またフられたの?」



そう声をもらせば、名前はがばりと顔をあげ、


じっと名前をみる僕の姿を瞳に映した。



『ど、どーして喜八郎はこうもデリカシーってもんがないかなぁっ!!』



少し、鼻声だ。



「目、赤いよ。」



『う、うるさいなぁ!ちょっと目に砂が入って、そんで・・・こすっちゃっただけだし!』





「また泣いたの?」



どうやら図星だったみたいで


恥ずかしくなったのか名前は赤くなった顔をまたひざにうずめた。

それから



『うるさい・・・』


って小さくつぶやいた。


彼女がこうやって丸くなる場所はさまざまで

その日によって色々変わる。



だけど、彼女のまるまった姿はこの月に今日で3回目。


早い話、彼女は少々惚れっぽい性格なのだ。


一目ぼれして、それからしばらくして告白。


案の定フられて丸くなる。


もう笑っちゃうくらいにそのワンパターンの繰り返し。



ただ丸くなる名前をじっとみつめてしばらくすると、


顔を伏せたままの名前はくぐもった声で話し始めた。



『今回はね?本当の本当に好きだったんだよ?』



「うん。」



いつも言ってる。



『周りのみんなは私が惚れっぽいから・・・またか、って感じで言うけど・・・』



「うん。」



僕も思った。




『こんどは、本当の本当だもん。あの人みてると胸がすごく苦しくなって・・・』




「うん。」



それもいつもどうり。




『だ、だけどさぁ、その人。私に喜八郎のこと言ってきた・・・』



「ふーん?」


名前が告白する人がみんな断る理由はなんとなくだけど

僕は気付いてた。



だけど、名前に直接僕の話をふる人は少し珍しかった。



『苗字さんは綾部とすごく仲が良いって・・・・』


「うん。」



『でも、喜八郎は私の幼馴染で、小さいころからずっと一緒にいたし、ってそう言ったの。』



「うん。」



『だけど、やっぱり・・・苦笑いしてから、「ごめんね」って言われた・・・』



その時のことを思い出したんだろう。

名前はまたグズグズと鼻をならし始めた。



「ねぇ、名前。名前は僕のこと好き?」



『・・・・・嫌いじゃない・・・』




「・・・天邪鬼・・・」


小さく息をはいて、それからもう一度口を開いた。



「顔あげて、ちゃんと僕の目見ていってよ。」



僕の言葉に、名前は少しの間黙っていたけど


しばらくしてからゆっくりと顔をあげて、僕のほうへ視線をやった。



やっぱり目が赤くて、涙の幕がうっすらと張ってた。



『・・・好き・・・。』


「僕も名前好き。」



僕が返事を返せば、


だから何なんだ?という顔で名前は眉を寄せた。



「名前はお馬鹿さんだね。みんな気がついてるのに。」



『な、何が?』


あきれたように僕がそうつぶやけば


名前は少し焦ったように僕の制服の裾をつかむ。



「名前は僕といて楽しい?」


『楽しくなきゃ、こんなにずっと喜八郎の幼馴染やってない・・・』




僕の制服の裾をつかんだ名前の手に視線をやって、

それから、少し頬をゆるめて名前を見た。


「つまりはそう言うことだよ。」



『・・・意味わかんない・・・・』



苦虫を噛み潰したような、微妙な表情を浮べて


納得できない。と名前はしぶる
















いかげん気付けばいいのに


(いつも隣にいるのは僕だ、ってね。)

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