知ってました?








「なぁ、作兵衛。俺ちょっと厠にいってくるな。」









「はっ?ちょっ、おい!三之助!?」








しまった、とばかりに冷や汗をたらしながら俺の名前を呼んだ作兵衛の顔をみたのは

まだ記憶に新しい。












作兵衛のやつはどうも俺と左門に対して過保護だ。

なにやら影で俺のことを『無自覚な方向音痴』とか呼んでるやつがいるせいだと俺は思っている。


まったくもって迷惑極まりないホラ話である。




俺が方向音痴なはずがない。



しかし、



「本当に、3年の教室はどこへ行ったんだ?」



俺の周りの建物はよく動くらしい。


そのおかげで俺はよく目的地にたどり着けないことがある。


だけど、気をつけてほしい。


これは断じて俺が方向音痴だからではなく。

建物が動いているせいだ。




「まったく、迷惑な話しだなぁ〜。」





気をとりなおし、歩き続けてみるも、3年の教室に着く気配はなかった。

どうしたものか・・・


そう思っていると。





『迷子の迷子の子猫ちゃん。あなたのおうちはどこですか?。』




「ん?」




どこかで聞いたことのあるフレーズの歌。



声のするほうへ振り返ってみると、そこには名前がいた。




名前は俺と同じ歳の『くのたま』だ。





「なに歌ってるんだよ。」





『なにって、迷子の子猫ちゃんの歌。』




ニコニコと、笑みを浮かべながら名前はそういった。

だけどやっぱり俺は首をかしげる。




「だから、何で?。」




『それはねぇ〜、次屋がまいごだからだよ〜。』










迷子?



俺が?




こいつは大概おかしいと思っていたが、やはり・・・




「俺は迷子なんかじゃないって、あっ、もしかして俺のこと『無自覚な方向音痴』なんて不名誉な呼び方してるのもお前か?」





『・・・・ま、無自覚なんてそんなもんだよね〜。』





なんだか話がかみ合っていない、そう思い、眉をよせていると


名前は俺の手をとって歩きだした。



「おい、どこいくんだよ?。」



『次屋が今行きたいと思ってた場所。』




「お前に俺の行きたい場所がわかるわけ?」




『うん。ばっちりね。』





やっぱりおかしな奴だ。




ニコニコと絶えず笑みをうかべ俺の手を引きながら歩く名前をみて

あらためてそう思う。




「なぁ、何でそんなにニコニコしてんの?」



思えばいつも俺が会うときは君の悪いくらいに笑みを浮かべている。





『次屋をみつけるとね〜作兵衛がほめてくれんの。』




そういって名前はよりいっそう笑みを浮かべた。






また作兵衛か、



こいつと話していて作兵衛の名前が出なかったことなんてない気がする。



そこがなぜか俺はおもしろくなくって、また眉をよせた。





「・・・名前って、ほんと作兵衛のこと好きだよな・・・」




『うん。大好き〜でも次屋も作兵衛のこと大好きでしょ?』





「んー・・・。」




確かに、俺だって作兵衛のことは好いている。


同じ学年だし、同じクラスだし、友達だし、いつも一緒にいるし。





でも、でもさ、俺的に作兵衛よりも・・・








そこまで考えて俺は思考を中断させる。



やめだやめ、そんなこと考えても虚しくなるだけだ。





名前は作兵衛のことがきっと好きなんだ。


それはたぶん、俺や左門に対する好きとはちがくて・・・・









『?次屋・・・。』





いきなり足を止めた俺に、名前は不思議そうにふりむく。



その顔を見てるとなんだか無性になきたくなった。




なんだ、これ・・・





名前と手をつないでないほうの手で、自分の胸の辺りをぎゅっと押さえてみる。






痛い。




『次屋。どうかした?』






「・・・お前って、作兵衛が好きなんだな。」




『何?さっきそういったじゃん。』




「そっか・・・・」



こんどは本当に泣きそうになって

少しうつむいた。




『・・・ねぇ、次屋。あたしの好きな人って知ってる?』





「は?何言ってんの・・・さっき作兵衛って・・・」





『うん。あたしは作のこと大好き。ぶっきらぼうだけど優しいところとか。』





もういいいって、知ってるって。



『面倒見のいいところとか・・・』




やめろよ、なんか俺がみじめになるじゃん。












『でもさ、次屋。あたしってばそれ以上に次屋のこと好きだったりするんだよね〜。』












「・・・・」







は?




名前のいってる意味がよく分からなくて


俺の思考回路は再びとまる。






『知ってた?』





かわいい笑みを浮かべて俺の顔を覗き込む名前に頬があつくなるのを感じた。







「俺のこと好き・・・?」





『うん。』




「そっか、名前は俺のことが好きなのか・・・。」




『うん。』




確かめるように俺が何度も繰り返すと

名前はそのたびにうなずいた。




なんだこれ?




さっきとは全然ちがくて


また、胸が痛くなった。



でも、悪い気はしない。






機嫌の良くなった俺をみて、名前はまた俺の手を引いて歩き出した。


ソレがなんだかまたうれしくって俺は名前の手をぎゅっと強く握った。


それに答えるように、名前もおれの手をぎゅっと握り返した。











なんだ、俺はこいつが好きだったのか。




なんだ、こいつは俺が好きだったのか。


















ってました?


(いえいえ、今気づいたところです。)



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