02

視界が歪んで頭痛もして吐き気までする。
頭の中では警報音が鳴り響いている
五感がおかしくなってしまったような、そんな感じ
風邪の症状のようなものを引き起こしている私の体はいたって正常だ
この正体に陥っていないこのクラスのほうが異常なんだから



「だってね・・・・」

聞かなければよかった
踏み込まなければよかった
何で人の問題に首を突っ込んだのだろう?
今からでも引き戻せるかな?
うん。きっと大丈夫
軽く聞いて流せば、それでこの話題は終わるはずだ

「だって、ツナ君はツナ君だもん」

嗚呼。全く話が見えない
軽く流すどころか、どこをどう触れてどう切ればいいかが分からない
最悪最低だ。一番嫌なパターンがきちゃいました

「ツナ君がね、こうしてって言ったからなんだよ?」
「へ、へぇ・・・・そう、なんだぁ!!」

これでどうだ!!
「ふぅん」っていう程度で、当たり障りのない返事を返す
可愛そうよと天使が叫ぶ。
これでいいんだと悪魔は頷く。
本当は虐めなんて止めなくちゃいけない・・・けど
私の天使は弱くって、卑怯な悪魔が強いの

「殴って、蹴って、斬って、焼いて、壊してって!!」

無邪気に笑っているのは幻覚幻聴で、真の姿は邪気をたっぷり含んでいる
怖い。この教室が
怖い。この空間が
逃げ出したいくらいに、ここじゃ悪寒しかしない

「ツナ君が言わなかったら私達だってこんなことしないよ?」

嘘付け。自分で自分を虐めてなんて言うやつは居ない!!
今この現状は遊びとか、ドMとか、そんな可愛らしいものじゃない!!
虐めがゲームになっている。
あぁ──これは“遊び”じゃないか。

「美姫、どこ行くの?」
「えっと、ちょっと気分悪いから・・・保健室に行って来るね・・・・」
「あ、それじゃぁ私もついて行くよ?」
「だっ大丈夫だから!!!一人で、行くね」

よろりと立ち上がった私を見て、心底心配そうな顔をする
その瞬間まとっていた黒いものが無くなった気がした
でも、それは間違いだったみたいだね・・・

「そっか。気をつけて、行ってらっしゃい」

見逃さなかった。
そう言って、目を細めて笑った京子の顔を
やっぱりあの娘は天使じゃなくて悪魔なんだ

教室の扉を開けてふらつく足取りで階段を下りる
手すりを使わないと足を踏み外して滑り落ちてしまいそうだ
あんな場所に居たから汚染されてしまう。
階段を下り終えて廊下の角を曲がる
はぁっと息を吐いてゆっくり目をつぶった、直後走った体の衝撃。

「っん!!」
「ぅわ・・・」

バサバサバサッ

床には散らばったノート。
吃驚して目を開くと特徴的な髪形に、黒い眼帯をした女の子
・・・・ここの学校レベル高いね
大きな瞳にすこし赤く染まっている頬。
十分すぎるくらいに可愛い

「あの、ごめんなさい」
「ボーッとしてた私が悪くて!ごめんねっ」

一緒になって大量のノートを拾う
多分英語の係りかなになかんだろう。
クラス分の英語のノートがちらばっている

「ありがとう、ノート拾うの手伝ってくれて・・・」
「いや、非があったのは私だから同然だよ!!」

そう言うと恥ずかしそうにその娘は笑った
さっきまであった胸のモヤモヤが吹き飛んだ
この娘の笑顔には浄化能力でもあるんじゃないだろうか

(きっと天使はこっちのことを言うんだよ)