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塩酸を生徒Aにぶっかけようとしている生徒B
それを楽しそうに、可笑しそうに見ている
生徒C,D,E,F,G,,,,,,,。
たとえ日常的に繰り返されている行為でも
何度もやられた経験があってもその度に傷は負わせられる
心はたった1日で何箇所も擦り傷、切り傷、打撲などを作る
学校に居る6時間とちょっとで致命傷は築き上げられるんだ
世界の全てに絶望したような目で見ていた。
教卓の前で偉そうに知らない知識を喋り続ける教師を
見向きもしないし、気づこうともしない

いたぶる事以外、誰も俺には興味が無いんだから

以前と同じ仲間という存在を知らなかった頃の
冷め切った目を教師から外し壁に張り出されている掲示物に向けた
そこには、自分の名前が抜けた調理実習の班が印刷されている
“沢田綱吉”別名は“空気”それは俺。



「あそこ」

じっと細く綺麗な指で指された一部屋
規則正しく並んだ窓。
でも指差されたそこは一つも窓が無くただの壁

「確かに、なんかありそうだね」
「きっと・・・ううん。絶対」

美姫が立っている場所は自分達のクラスもある校舎の屋上
本館と呼ばれる建物だ。
クロームから借りた双眼鏡から覗く先は東側に建っている
もう一つの学校の校舎であり、スポーツ推薦の方々が居る東館。
行ってみる価値はかなりありそうだ
フランを助けて、3人で六道骸を・・・
絶対に沢田くんを絶望の闇から連れ出してあげるんだから!

「行こう、クロームちゃん」
「今から・・・・?」
「大丈夫。今日ならいける気がする」
「美姫がそう言うなら・・・分かった」

屋上を出るときに響いた音がいつもよりやけに鼓膜に残った
ここに残らないといけないような、留まることをすすめるような
そんな音がしていた。

「フランがいるはずの場所って
 一体なんの部屋なんだろう・・・?」
「あの階はV類の生徒の寮
 その上は教室だったと思う」
「調べたの!?」

コクリと美姫を見つめながら頷く
行こう!なんて言っちゃったけど
クロームちゃんみたいにもっとちゃんと準備して
これなら楽勝だぜ!!って言えるくらいにならないと
フラン救出作戦(仮)は成功しないかも・・・

「大丈夫」
「えっ・・・」

美姫の心を読み取ったように真っ直ぐ前を向いて呟いた
いつもは不安げな表情のクロームだったが、今は違う

「美姫なら、大丈夫」

いつになくはっきりと言う姿が妙に元気にさせてくれる
なんの証拠もないし確証も無い。
でもさっきまでの不安もない!

(これでまた一歩、沢田くんに!)