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押し倒されて、馬乗りになられて、髪を鷲づかみにされて
何もかも受身だった。
抵抗しないとその液体が身体を溶かしていくって分かってた。
なのに、どうして俺は動かないんだろう?
どうして俺は、こんなに力が入らないんだろう?
答えは至って簡単でシンプル。
このまま溶けてしまいたいと思ったから
生きることが、ど う で も い い 。
意地悪く笑うクラスメイトも
可笑しくなってしまった仲間も、
目に映る全ての出来事がパネル越しの他人事に思えたんだ
でも、目の前で驚愕した君を見たら自分の存在を改めて実感した
なんでだろうね?
自嘲気味に笑えば気に入らなかったのか殴られた



なんで、なんで普通にしてられるの?
繰り広げられる光景は本当に普通。
どこもおかしなことはないけれど、それがおかしい

「樫原、遅かったな」
「教室が分からなくて、迷ってしまって・・・」
「転校したてだから仕方ないな」

席に着けと言われた、言われてしまった
やっぱり、おかしいよ。
何食わぬ顔で獄寺たちの横をすり抜ける
さっと奪い取った塩酸の入ったガラス瓶。
抜き取られたことに驚いた後、眉間に皺を寄せて睨みつけてくる

「てめぇ、何すンだよ」
「えっと・・・私の、班の使う液体が無くて・・・」

やっぱりこんな風に睨みつけられるのは
すごい恐いし、本当は面と向かって文句を言いたかった
沢田くんの変わりに言いたいこと全部ぶつけたかった
でも、私はここまでが精一杯。
こんな微妙にしか助けられなくて

ご め ん な さ い

思わず涙が零れ落ちそうになったけど
ここで流せば京子ちゃんたちに不振がられてしまう
ぐっとこらえて、上を向いた。
フランは何をしてるの?
もう何日も経ってるのに・・・!
メールを送っても全く返事が返ってこない
このままじゃ沢田くんがかわいそうだよ!
ねぇ・・・私はどうしたらいいのかな?
どうすることも出来ない無力な私。
静かに沢田くんが教室を出て行くのが見えた
それでも着々と実験は進んでいって私はポツンと取り残されたままで。
異常と普通の狭間で入り乱れる心
塩酸が無害な水に中和されて
残骸になった赤いフェノールフタレイン
もう実験は、終わったんだね。
彼が1人いないっていうのに

(応答願います。お願い、します。)