09

床に倒れている傷だらけの少女
それを上から見下ろす緑色の髪の少年
その間に少女を庇うように立っている恐怖に脅える少女。

「あなた、なんなの・・・?」
「それはこっちのセリフですー」

幻覚を使って少し違った空間を作っていたのに
どうして目の前の女はここに来れたのか?
決して自分の幻術は弱いとは思わない
もしかしてコイツは腕の立つ術師なのか?

「人にされて嫌なことはしちゃ駄目って習わなかったの?」

術師なら幻術で対抗してこれば良いものを
見当はずれな見解を述べてくる
対峙しているこの女がどういうものか
全くフランは掴めなかった

「自分もこんなに傷だらけなのに・・・
 人に傷つけられるのはとっても
 痛いってあなたも知ってるはずでしょ!?」
「っ!!」

今まで無表情で感情が読み取れなかった相手が
ピクンと肩を揺らして反応した
そしてそっと自分の肌に触れてさらに動揺する
──今まで隠していた傷が・・・
師匠によってつけられたもの。
肌の上を滑る指先にザラリとした感触が伝わる
何度もムチで殴られて出来た傷のかさぶたの触感だ

「立てる・・・?」
「う、ん」

美姫がクロームをおぶった
警戒した様子でフランから視線を外さずに。

「ちょっと、あれ何?」
「しっ!関わっちゃだめよ!!」

ざわざわと、周りが騒ぐ
先程まで人など居なかったのに溢れるように現れる
幻覚の空間が女だけでなく周りにも破られている
未だかつて経験したことのない事態
フランの思考はますます混乱の一途を辿る

一旦引くしかなさそうですねー・・・
もしくは場所を移すか。

美姫の背後へ即座に周る
目にも留まらぬスピードで一般人の美姫は反応できなかった
クロームをおんぶした状態の2人を
有無を言わせず軽がると抱えると
廊下の窓から飛び降りた

「っ!」
「ちょ、待っ!?」

ものすごいスピードで落下していく
クロームは先程の傷と今のショックで
完全に気を失っている。
自分がしっかりしないと!と、思うけれど
あまりの速さに意識を飛ばしてしまいそうだ
視界がぐるぐる反転して、木々の緑がチカチカする

・・・・・気持ち悪い。

チラリと落下を選んだ本人はケロリとした表情
なんでこんなに平然と、して・・・
カクッと美姫から力が抜けるのを確認して
フランは薄っすらと笑みを浮かべた
先程までの勢いはどこにいったのか
ゆっくりと流れるような動作で見事着地してみせた

(じっくり聞かせてもらいますー)