04

『役に立てたなら嬉しいよ。
 大事な友人の孫だもの』

そう告げると琴雨は瓶を残してスッと消えた
廊下に転がっている形で渡された薬
拾い上げたとき温かい感じがした。
祖母であるレイコさんがやったように
ヨモギが混ぜられた薬を一掬いして腰周りにある
噛まれた痕へと優しく塗りこんだ。

「っう」
「わ、ごめん」

小さく呻き声をあげられたので反射的に謝る
が、目はまだ覚ましていない
痛がらないように、起こさないように慎重に塗っていった
この薬の効き目は抜群で大きな傷痕があと少しで治りそうだ

「すごい威力だな」
「一瞬でこんなに・・・」
「で、その娘はどうするんだ?」
「どうするって」

そのままじゃ塔子に見せられんだろ。
あ、確かに・・・・
ニャンコ先生に指摘されるまで気づかなかった
大量の出血で着ていた服は血みどろ
おまけに妖に噛まれたので大きく穴があいている

「どうしよう・・・」
「お前は本当に阿呆だな」

やれやれ、と言った感じの先生に腹も立つが
反論が出来ない自分が悔しい─!

「その服は捨ててカバンの中の服に着替えさせたらいいだろ」
「そうだな!先生」

彼女の洋服に手をかけてボタンを2,3個外したところで気づく
流石に男のおれが女の子の服を脱がせるのは・・・・
手が進まない夏目をみかねた先生はボフンと煙を立てて
ドッチボール部の主将に変化した。

「変わりに着替えさせてやる
 これで絵図的にも問題ないだろう」
「いや!!そういう問題じゃないから
 中身は同じ中年ニャンコだろっ」
「中年とは失礼な!」

こんなことをしていたら塔子さんが帰ってきてしまう!
いっそのこと起こして自分で着替えてもらうか?
でもそれじゃ、さっきのことを説明しないといけなくなる
「妖に襲われてたんだ」とは、口が裂けても言えない
ニャンコ先生は元の招き猫の姿に戻りため息をついた

「こんにちはー」

玄関の扉を一つ挟んだその先からタキの声が聞こえる
きっとこのあいだ貸した本をわざわざ返しに来たのだろう
学校で渡してくれたらいいと言ったけれど今はありがたい──!

「タキ!頼みがあるんだ」
「うわぁ!!びっくりした!」

勢いよく扉を開けて招きいれたタキに事情を話すと
それは戸惑うよね、と苦笑いしながら引き受けてくれた
ニャンコ先生を連れておれは玄関先で待つ
遠くのほうで小さく塔子さんが歩いているのが見える

「タキ!!塔子さんがもうすぐ帰って来る!!」
「大丈夫、後は血をふき取るだけだから!」

用意しておいたビニール袋に着ていた服を入れて
先生に任せて捨ててきてもらった
連携プレーにより塔子さんが辿りつく頃には
妖怪に襲われた血まみれの女の子の手当てから
貧血で倒れた女の子の看病という状況に変わっていた

「もう来てたのね!びっくりしちゃったわ
 タキちゃんもいらっしゃい」
「こ、こんにちは!!」
「今日はありがとう。助かったよ」
「ううん、全然。
 それより本ありがとう!」

倒れたあの娘を部屋へと運んだりと色々するため
タキは邪魔しちゃ駄目だからと本を返して帰っていった
かすかに血のにおいのするこの娘のこと
塔子さんに気づかれなかったらいいけど・・・
でも、それと同時にまたおれは嘘をついた。

(今日のはきっと、つかなきゃいけない嘘)