02

藤原家に引き取ってもらってから1ヶ月とちょっと
家の周辺や学校への行き方など簡単なものは覚えているが
まぁ病院にお世話になったことが無い
つまりそれは・・・・・

「場所を知らんだと!?」
「あぁ。こういうことが起こるんなら
 もっと早くに教えてもらっておくべきだった」

一刻を争うときに何をしたらいいのか全く考えが浮かばない
どうしたら、どうしたらいいんだろうか・・・

「家に連れて帰えればいいだろ」
「塔子さんに何て言うんだよ」
「拾ったとでも言っておけ」
「そんな犬猫みたいな言い方出来るわけ無いだろ!」

でも先生の言うとおり塔子さんを頼るしかないよな

「ニャンコ先生。頼み、うわっ」

ボフンッと大きな音がして白い煙が視界に広がる
それはすぐに晴れて現れたのは本当の姿になった先生だった

「夏目、乗れ」

そう言って顎でクイッと自分の背中を指す

「ありがとう!ニャンコ先生!!」

ゆっくりと慎重に抱きかかえて先生の白くてふわふわした背中に横たえた
そして彼女を支えるようにして夏目自身も跨る

「しっかり?掴まれ」

地面を一蹴りするだけで身体は大空へと舞い上がり
人も建物もミニチュアサイズ。
そこから一気に加速して一瞬で家の近くに降り立った
門前に直接空から戻るのは見つかるかもしれないと思い避けた
ぽてぽてと隣を歩くのは招き猫姿のニャンコ先生
猫に玄関を開けてもらうというのはちょっと不思議な気がする

「と、塔子さーん・・・・」

家の中は静まり返っており中に人がいる様子は無い
いつもならいるはずなのに・・・
買い物中なのか?

「居ないみたいだな。どうする、夏目」
「どうするって・・・・」

どうしようか。
当てにしていた塔子さんがいない
これは本当に困った
出かけたばかりじゃ当分はすぐ帰ってこないはず
抱きかかえたままの少女は呼吸がさっきよりも浅かった
これは相当危ないのかもしれない・・・!
ニャンコ先生の耳がピクリと動いた

「夏目、電話だ」
「え?」

確かにリビングのほうでコール音が響いている
玄関先にそっと彼女を座らせ慌てて電話をとった

「も、もしもし」
『あら、貴志くん?』
「えっ塔子さん!?」
『もう帰ってきてたのね!
 そっちに女の子来てないかしら?』
「女の子、ですか?」

居るには居るけれど・・・・
これは何て言ったらいいんだろう

『この間、女の子を引き取ることになったこと言ったでしょ?』
「そっそうなんですか!?」
『あら!言ってなかった!?』

お互いが返事に驚くという連絡ミス
塔子は言った気になっていて夏目は初耳だ

『実は駅まで迎えにいくことになってたんだけど
 時間を過ぎても来ないのよ・・・』
「はぁ、」
『食卓の上に写真があるでしょ?』

受話器から耳を離して探してみると言われたものが確かにある
ある、のだけれど──

『その子が来たら貴志くん駅まで来てもらえる?
 連絡があるまで待ってみるから・・・貴志くん?』

塔子さんの声が遠くで聞こえて上ずった声で返事をした
急いで帰ってきて欲しい、とちゃんと伝えた。

(探している子はここにいます)